教育
二人で、部屋に向かって庭を歩く。部屋の入り口が見え始めたところで、若い娘たちの声が聞こえてきた。
窓が開け放たれているから、結構部屋の中の話し声が聞こえるんだ。
「あーっ、もう、なんだって私が黒の姫のとこで働かなくちゃいけないのっ」
「仕方ないじゃん。じゃんけんで負けちゃったんだし。……半年の我慢よ。今から希望を出しておけば半年で配置換えしてもらえるはずだからさ」
「半年かぁ……あー、その半年で他の姫様が陛下に見初められたら悔しくて死んでも死にきれないわ!」
「まぁ、確かにねぇ。そのまま姫様について王宮の侍女になれる可能性がつぶれちゃうんだから。黒の姫なんてぜーったい、ぜったい陛下のお目に留まることなんてないでしょ。ほんとハズレくじもいいとこよっ!」
「ただでさえ黒の姫っていうだけでも可能性低いのに、新しい姫は噂じゃかなりの醜女で、しかも年増!もう、可能性ゼロどころか、陛下のお怒りを買って一緒に罰せられるんじゃないかって。不安しかない」
「不安しかじゃないでしょ、不満もたっぷりあるでしょ」
「あははは、上手いこと言うね~」
あー。そういうことかぁ。
人事でもめて遅れたってことなんだ。
「あーあ。しばらく黒の宮の侍女だって、他の宮の侍女に馬鹿にされるのかと思うと気が重い……」
何てことだ。
呂国は仙皇帝妃を輩出しようなどとこれっぽっちも思っていない。ただ、昔の盟約にしたがって、妃が決まるまでは姫を後宮に送っているだけだ。
……その後宮で働く人たちに迷惑が掛かっていたとは……。
私の斜め後ろでも同じように話を聞いていた苗子が真っ青な顔をしている。
「も、も、申し訳ございません……」
フルフルと小刻みに震えているようだ。
怒り?悲しみ?それとも自分の人選が上手くいっていないことが露呈してしまった恥ずかしさ?
どちらにしても……これは、何とかならないものか。
「大丈夫よ、気にしないわ。呂国でも、似たような侍女はたくさんいましたから。……ほら、私、こんな容姿で結婚もせずに26歳と行き遅れでしょう?」
苗子が顔を上げた。
「大丈夫よ」
ちょうどいい。
えっと、猫背にならないようにえーっと。頑張って背筋を伸ばす。
「お待たせしたわね。」
と、できるだけ威厳のある声が出るように頑張って声を出す。
うー。普段おしゃべりに興じることもなく本ばかり読んでいたから発声には自信がないけれど、頑張らなければ。
部屋の中にいた、20名ばかりの人の目が私に向く。
それを見計らって次の言葉を口にする。
「いえ、待たされたのは私の方でしたわね。ふふふ」
と、嫌味を繰り出す。
立場はどちらが上かというのは示さないといけない。
私が上。
これを間違えてしまうと、お互い不幸になる。
例えば侍女たちは、勤務態度が後で問題視され、突然反逆罪の罪で投獄されてしまうとか。まぁ、私はそんなことしませんが。中には、侍女たちの行いをメモして後でまとめて断罪するなんて趣味のある姫がいたと、本に書いてありました。もし、半年後別のところへ移動した後問題が起きるといけないですし。一応ね。教育教育。
それから、さすがに周りにいる人間に小さないやがらせをされたくないので。
お茶に雑巾のしぼり汁を入れられるとか……。実際にそういうことがあるらしいから。世の中は怖い。
「苗子、紹介を」
と、苗子の名前を呼ぶ。
ありがとうございます。
ブクマ、評価、励みになります。
感想、レビューお待ちしております(*'ω'*)
鈴華って……後ではっ!と思ったんですけど、本好きのイラスト?漫画?なんか書いてる人の名前……で、タイトルに本好きって入ってて、いや、ちょっと、かぶり過ぎたかと焦ったのですが……。
意識はしてないです。
本好きも、キャラクターの性質なんで、どうにもならないです。他に変えがきく単語ってありますっけ?読書の虫とか?でも、妖怪だしなぁ……
タイトルに妖怪と入れようかとも思ったんですけど、そうすると、本当の妖怪と間違える人がいると思ったのでやめました。