満足
「ああ、まぁ後宮は安全だと言いたいところだが……完璧だとは言えない。人が出入りする限り……絶対とは言い切れない」
あー。まぁそうなるのか。
侍女も黒の宮に不満もらしてたし。マオだっていじめられたのかとか心配してくれたし。
悪意がある人間の出入りを完全に排除できないってことだよね。
「この部屋だけは結界が張ってあるから、日が落ちてからは俺と苗子しか入れないから安全だが、黒の宮全体に結界があるわけではないからなぁ。万が一のことを考えると……」
「結界?え?結界って本当に張れるんだ。それ、仙術?ねぇ、どうやって結界って張るの?この部屋だけなのはなんで?物語の本では結界って出てくることは会ったけれど、結界について詳しく書かれた本は1冊も見たことがないし、本当にあるとは思わなかった。ねぇ、レンジュ、レンジュも結界とかそういうなんか不思……」
レンジュが一歩後ろに下がったかと思うと、苗子後は頼んだと言葉を残して天井裏に飛び上がってしまった。
ぬぅ。逃げたな、レンジュ!そうだ、鈴を鳴らすと来るんだっけ?鳴らしてみようか?
机の引き出しに伸ばそうとした手は苗子につかまれた。
「せっかく早起きしたんですから、背筋を伸ばして優雅に動く訓練でも致しましょうか」
うっ。
猫背は直すと確かに誓った。ちょっと頑張ろうとも思った。でも、今から?
「今日はスカーレット様にお会いするんですよね?」
苗子の顔が怖い。えっと、もしかして、寝起き不機嫌なタイプなのかな?早朝に起こされて怒ってる?
うひー、ごめんなさい。
ううう、早起きは三文の得って、本に書いてあったのに……。
書いてあったのに!早起きしたら、なんだか、図書室の時間制限は決まるし、苗子は不機嫌になるし、特訓させられるし……。
嘘つき!本の嘘つき!
朝食は、たいへんおいしくいただけました。お腹空いていたので。うぐぐ。
「うん、完璧だよね?」
目の前には、午前中に試作して、午後に完成させたお土産に持っていくお菓子。
「はい、これは本当に、おいしくて……夢のようなお菓子でございます」
作ってくれた料理人がほっぺを抑えた。
試食したときにほっぺたが落ちそうといっていたけれど、まだ落ちそうなんだろうか。
「二人が頑張って丁寧に作ってくれたからこんなにおいしくできたんだよ。ありがとう」
にこっとほほ笑むと、料理人二人がぽっとほほを赤くして激しく頭を横に振りだした。
「いえいえ、これほど素晴らしいお菓子の存在を私たちは知りませんでした。教えてくださった鈴華さまのおかげでございます」
「そうです。鈴華様がいらっしゃらなければ作れないものでした!あの、ご満足いただけてうれしいです」
大げさだよねぇ?
何かの意を決したように、料理人二人はお互いに顔を見合わせて小さく頷いた。




