楓はやめさせて
私が苗子を読んだ声を聴いて、急いで身支度をしたのだろう。ずいぶん着崩れている。
「苗子、ごめんなさい。急がせてしまって。服の合わせが乱れてるわ」
と、胸元の合わせを直そうと手を伸ばすと、苗子がとっさに身を引いた。
ちょっと顔を青くしている。
触られるの嫌だったかな?
「し、失礼いたしました。あの、急ぎでないならば整えてまいります」
……あ、なんかちょっとわかってしまった。
整え終わって戻ってきた苗子の胸元を見る。うん。さっきより膨らんでますよ。苗子細いから仕方ないと思うんだけどなぁ。
気にしてるんだ。貧乳。で、作りもの入れてるんだね。大丈夫。黙ってる。誰にも言わないね。
そうか。湯あみの練習台になりたくないのもそれが原因だったのか……。まさか、独身なのもそれを気にして?
私が読んだ本には、胸の小さな女性を好む男性が出てくる話もあったよ。あ、逆に胸を大きくする方法みたいな本もあったな。何て書いてあったっけ。興味がなかったから真剣に読まなかったな。こんなことならもっと真剣に読めばよかった。そうすれば苗子にさりげなくアドバイスすることもできたかもしれないのに……。
「それで、どうなさったのですか?」
すっかり落ち着きを取り戻した苗子がベッドに座る私の前に立つ。
「楓のことなんだけど」
「本の整理を任せていた下働きの楓がどうかしましたか?」
「辞めさせて、楓に下働きをやめてもらって」
苗子がぎょっとした顔を見せる。
「確かに、まだ図書室の棚に本を並べ終わっておりませんが、さぼっていたわけではなく……今日中には終わるかと思いますので」
青ざめた顔で楓の身をかばうような言葉を口にする。
ああ、そうか。
苗子は、ちゃんと仕事をする人達のことは評価していて、こうして辞めさせないようにかばうこともできる人なんだ。
「苗子、しゅき」
ますます苗子が好きになった。
「え?好き?は?いや、そういわれましても、楓を辞めさせるのには賛成できかねます……」
苗子が照れたような顔を一瞬見せて困った顔をする。
「そんなぁ、お願い、どうしても、どうしても楓には下働きをやめてもらいたいの!辞めさせてね?」
苗子の手を取り懇願する。
「鈴華様……何故だか、理由をお聞きしてもよろしいですか?さすがに、その、失礼なこと、気に入らないことがあったのなら注意をいたしますので。改善されなければ考えますが……すぐに解雇というのは……」
はてと、首をかしげる。
「気にいらないところ?何を言ってるの?私、楓をすごく気に入ったの!」
苗子が、首をかしげる。




