苗子を呼ぶ
「なんて鈴華様は勉強熱心なのでしょう!こんな早朝にわざわざ起きてまで……」
あ、いや、違う。単に昨日の夜枕の下に隠した本を没収されたので……早起きして読もうと思っただけで……。
勉強するつもりでもなく、単に本が読みたいだけで。
何を読もうと思った時に、一応、本当に一応、話題作りのためにもなればいいなぁと思っただけで。
楓の純粋な目が私の心に突き刺さる。
ごめん、違うんだ、そんな立派な人間じゃないのです。心が痛い。
急に楓の視線が宙をさまよう。
「朱国の料理関係の本はあと3冊あったと思います。あ、タイトルだけで判断するとですが。必要ですか?」
返事をする前に、楓が1つ目の棚から3冊の本を抜き出した。「お菓子の国の赤の姫」「基礎の料理」「赤の映える食材」
「ねぇ、楓もしかして……それも瞬間記憶能力で覚えた映像で探したの?」
楓が頷いた。
「もしかして、私が突然、靴の本が読みたいと言ったら探せるの?」
楓の視線が宙を再びさまよう。そして、金国の本が並んだ棚から1冊の本を取り出した。
「これくらいしか見つかりませんでした」
タイトルは「足を美しく装う」。確かに足の装いに靴も入るだろう。
「ちょっと待ってくださいね、鈴華様」
楓はページをめくり始め、2秒ずつ眺める。いち、に、ぺらり。いち、に、ぺらり。いち、に、ぺらり。を繰り返すこと2分。
「靴……」
目を閉じて瞬間記憶した画像を確認し始めたようだ。
「えーっと、靴という単語は4ページ目と12ページ目に出てくるだけですね」
はい?そこまでわかるの?
「で、なんて書いてあるの?」
「あー、すいませんさすがにそこまでは……。見るのと読むのと意味を理解するのと同時はむつかしくて。単語を発見するのとではちょっと……あ、読み上げることはできます。――足を美しく見せる靴というものは、一見素敵なアイテムのように思えますが、そのデザインの多くはとても窮屈で、靴を履き続けることで足がゆがんでしまうことがある。そのためむしろ、靴を脱いだ時に足の美しさを損なう結果をもたらすことがあり……」
す、すごっ。
「楓すごい!なんか、すごい!ねぇ、楓、苦痛じゃない?本にいつもかもまれていたり、こうして私に本を朗読するのって苦痛じゃない?平気?その……瞬間記憶能力を使うととても疲れるとか、そういうことはない?」
がしっと楓の両肩をつかんで揺さぶる。
「はい。大丈夫です」
楓の返事を聞いて、図書室を飛び出す。
「苗子、苗子ーっ!お願いがあるの!苗子ー!」
バタバタと廊下を走り部屋へ戻る。
って、苗子ってどこにいるんだっけ?とりあえず黒の宮のどっかだよね。どこだろう。使用人が使う空間って案内されてないけど、あるんだよね。あ、なんか小さめの隠し扉みたいなのがどっかにあったっけ。あそこから出入りしてるのかな。
「し、失礼いたしました。およびですか鈴華様っ」
慌てて苗子が部屋に飛び込んできた。




