覚えてる?
「おはよう楓。昨日は頑張ってくれたようね。無理しすぎないでね。今から部屋へ行って休んだ方がいいわよ?」
と、背中に隠した本をどうしようと思いつつ、とりあえず楓に部屋から出て行ってもらってからもとに戻そうと声をかける。
ぱぁあっと楓の顔が輝いた。
「なんてお優しい」
は?
「頼んだ仕事がまだ終わってないじゃない愚図と、使用人を怒鳴りつける姫様もいるから、てきぱきと仕事はしないとだめですよと母が言っていたんですが……仕事が終わってないのに、愚図というどころか、部屋で休んでいいなんて……鈴華様はなんとお優しい……」
あ、いや、単に早くひとりになって本を読みたいとか思ったりとか……。
「頑張って、続きをやります!」
楓が立ち上がって腕まくりをした。
い?
「無理はだめよ、若いからって、ちゃんと休まないで無理をすると、あとで倒れてしまうこともあるわよ」
頑張らなくていいよ。部屋に行って、ね?背中の本を戻す時間を頂戴!
楓が首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。それに楽しんです。タイトルを眺めているだけでも……。朱国は……あ!」
楓が話の途中で大きな声を出して朱国の棚の前に駆け寄った。慌てて後ろに隠した本が見つからないように、移動した楓の位置に合わせて体の向きを変える。
「本が、減ってる……」
あー。いや、今私が後ろに持ってます。
「えっと、4段目のこの位置に置いた本……「朱国の宮廷料理」というタイトルの本が……どこへいったんだろう……」
げ。
「あ、あの、楓、もしかしてどこにどういう本があるのか全部覚えてるなんてことは……ないよね?」
本の妖怪と言われているこの私ですら、読んだ本のタイトルをすべて覚えているわけではないし、どこに何があるのかも「たぶんこの辺で、こんな感じのタイトルの」という程度しか覚えてないというのに……。
繰り返し読んだ大好きな本は別だけど。
「覚えているといえば覚えています。ちょっと変わった能力があるので」
へ?
「覚えてる?変わった能力?仙術とか?」
ここは仙人の住む仙山だ。いや、でも本には仙人といってもただの人だって書いてあったけど……。違うの?
「瞬間記憶能力というものなんですが、意識して2秒見ると、見たものを映像として記憶できるんです」
「な、何それ!何それ!もしかして、それって、本を開いて各ページ2秒ずつ眺めれば、全部覚えちゃうってこと?それなら本をいくらでも読み法だいじゃない。100ページの本も200秒、いや、見開きで考えれば100秒……たったの2分程度で読み終えることができるってことでしょ?それが100冊でも200分……」




