きらわれたくにゃい
「お、男の人……みたい?」
あー。いや、口が滑った?
「ご、ごめん、違うの、その、女として魅力がないとか、胸もペタンコだとかそういう意味でなくて、ほら、なんかやせた男の人って、関節が出て全体的に同じペースで細いイメージでむしろ健康的というか……女性で細いと、どこか不健康に見える人もいるから、えっと、えーっと」
料理人があーあと手で顔を抑えている。
「女として魅力がな……い……って、言ってますよ……」
「胸もペタンコだとか言ってますよ……」
と、小さなつぶやきが聞こえてきた。
ひぃーっ、まさか、まさか、言い訳しようとして裏目に。
「苗子、違う、違う、ああ、違う、ごめんなさいっ」
どうしようと焦って苗子の顔を見ると、意外にも苗子はにっこり笑っていた。
「そういう意味でしたか。私が男に見えるという、そういう話じゃないんですね?あくまでも、女としてはという意味なんですね?」
「当たり前よ。男と女の見分けくらい、目が悪くたってできるわ!」
と胸を張った。
見分けるポイントは、えーっと……服装と声。苗子は女の服着てるし、声も女性にしては低めだけど、決して男性のような地の底に響くような声はしてない。
「ただ、男と宦官を見分けるのは大変ね。レンジュなんて男にしか見えないし……」
苗子がほっと息を吐きだす。
「ええ、まぁ、そうですね。レンジュのように男にしか見えないのが宦官ですよね」
ん?そうなの?女に見える宦官はいないの?もともと男だから、見た目は男のままってことかな?でも、女の人みたいに綺麗な男の人もいるよね?
マオなんて綺麗な顔してるから、女の恰好させたらすごい美人になると思うんだ。あれ?でも、宦官とはいえ、男であったという矜持みたいなのがあって、女の恰好はしたくないのかな?
うーん。宦官について私は知らなさすぎるよね。仕方がないよ。呂国にはいなかったんだもん。本でちょっと読んだ知識しかないんだから。
苗子が笑いながら言葉を続ける。
「身長が高い分、やせて見えるのかもしれませんね。ですが、正直女性として魅力的な体ではないので、湯あみ係の練習には絶対にお付き合いできませんので」
ああそういえば、青ざめて湯あみ係でローテーションしなさいって言われたわ……。
「まさか、無理やり私に恥をかかせようと思ったりしませんよね?」
う、うう。
ごめんなしゃい。
素直に頷く。苗子に嫌われたくない。
調理場を出て、図書室に向かう。




