苗子?
「ああ、そうか。食べない?いろいろあるけど。鍋もそうだし。……そうか、料理をしながら食べるというのは、ないのか。確かに……食堂と調理場は分かれているし、庭ではそういうことができそうな場所もないのか……」
もともとは呂国の小さな村で行われている祭りで食べる料理だ。
広場で火を焚き、そこで料理をしながら食べる。
本に書いてあった。ああ、違うな、呂国だけではない。別の国の本にもあった。……どこの国だったかなぁ。肉を焼いて食べる焼き肉とか。貴族たちは来ている服に匂いが映ると顔をしかめたけれど、村の人たちは貴族の服についた臭い匂いに顔をしかめていたという。むしろこっちの匂いの方がおいしそうでいいじゃないかと笑いあって親睦を深めたとかなんとか……。
それ読んだときに、私だけが香油を臭いと思っていたわけじゃないんだと思ったものだ。
そしてそのあと、焼き肉が食べたいって言ったら、焼いた肉が出てきたのよね。
「違うっ、そうじゃなくて、焼きながら食べる焼き肉で、服に匂いがつく、焼き肉!」
とわがままを言ったんだったよなぁ。
本を渡して……ああそうだ。朱国の本だった。本を読んだ侍女が、朱国に行ったことがある文官探して話を聞いて、本に書いてある「焼き肉」を再現してくれたんだ。
元気かなぁ、皆。
「えーっと、室内じゃむつかしいから庭で。えっと、用意してもらうものは……」
苗子が慌てて紙と携帯用筆を取り出した。
「すごい、苗子、用意周到」
苗子がふっと鼻を鳴らす。
「そりゃ、もうすでに何回、後で紙に書いて渡すわと言われたと思っているんですか?」
自慢げな顔をする苗子。
「苗子、しゅき……」
私のことわかってくれて好き。
「ふふ、さぁ、遠慮なくおっしゃってください。メモしますから!」
張り切っている苗子には悪いけれど……。
「あとで、紙に書いて渡すわ」
というしかない。
「鈴華様……、どうして……」
ちょっと悲しそうな顔をする苗子。
「あ、うん、こういう形のとか、形はなかなか口で説明できないでしょ?だったら紙に自分で書いた方が早いかなと……」
「そういうことでしたか、わかりました。ではお願いします」
苗子がほっとしたように目を細めた。
「明日の夕飯楽しみね。あ、明日のお菓子も楽しみ。ふふふ」
なんだか、こんなに好きなものばかり食べる生活でいいのかな?太りそうだよ?
「そうですわね、とても楽しみです」
苗子が私以上に楽しみだって顔してる。
苗子は背が高くて細いから……ちょっとは太ったほうがいいと思うの。
「苗子は、やせた男の人みたいに細いから、いっぱい食べて太ってね」
というと、苗子がぎくりと体をこわばらせた。




