鉄板はてっぱn
「読書のために木にのぼって、読書のために木に上るのを止める決断をするんですね。鈴華様の行動基準は読書第一なんですねぇふふふ」
はい。そうです。だんだん私という人間を分かってきましたね、苗子。
「で、どうしたの?」
「材料がそろったようです」
ああ、そういえば明日持っていくお菓子の材料を頼んでおいたんだ。
「ずいぶん早いけれど、試作は明日の午前にして、午後から本番の予定じゃなかった?」
苗子がニヤリと笑う。
「どうも、新しいお菓子がどんなものかみんな気になって仕方がないようです」
ああ、そうなんだ。
んー、でも、さすがに何度も試作しても材料もったいないし、食べ飽きちゃいそうだよね。
「お菓子は予定通り明日の午前に試作しましょう。その代わり、夕飯で何か珍しいものを作ってみます?」
苗子が私の背中を押した。
「さぁ、では急ぎましょう、急ぎましょう」
「ちょ、苗子、本と梯子を持って行かなくちゃっ」
背中を押されてぐいぐいと建物の方へと歩かされる。
「後でシャンシャンにでも運ぶように言っておきます。そんなことより、料理、料理」
って、そんなことじゃないよっ!大切な本を、本を、本を置き去りにするなんてぇぇぇっ!
「あ、ごめん。すぐにはこれ食べられないやつだった。明日のお楽しみね?一晩寝かせないといけないので……」
呂国の王宮に伝わるスパイスをふんだんに使った贅沢な品。仙皇帝の後宮ともなれば、各種スパイスは豊富に取り揃えられておりました。それを見て、呂国でもそう頻繁に作れないものをせっかくだからと……。
これ幸いと作ってみたものの……。鍋の中に入った少しだけとろみのある液体をかき混ぜながら、料理人たちの顔は引きつっている。
「これまた……黒いですね……」
はぁ、そういわれれば黒いかな?
「あれほどの種類のスパイスを使うのは初めてのことです」
まぁそうだね。スパイスの塊みたいなもんだね……。
「一晩……寝かせるんですね。どんな味なのかは、明日のお楽しみ……」
ごくりと一人の料理人が唾を飲み込んだ。
「大丈夫だよ、おいしいから!色は黒いけど……あ、でも無理して食べなくてもいいからね?やぱり黒いってだけで不安だよね?えーっと、呂国では黒い食べ物いろいろ食べますけど、割と健康で元気で丈夫で長生きよ?呪いも毒もないからね?」
苗子が私の手を握った。
「鈴華様!私は食べますわ!鈴華様がおいしいというものに間違いはないと信じています!」
「ありがとう。本当においしいから、明日びっくりしてね」
といったものの、単品で食べる物ではない。何に合わせようか……。
うーん、何かないかなぁ。あ、そうだ!せっかくなので……。
「大きな鉄板で料理しながら食べましょうか!」
料理人たちが首をかしげる。
「鈴華様、料理をしながら食べるというのは?」
苗子が代表して疑問を口にした。




