失敗
「みんな。あんまりその匂い好きは人はいないよ。なんで、そろいもそろって姫たちは臭くなるんだろうね?まぁ、遠くからでも匂うから、近づいてくるのがわかって便利だけど。匂いがしたら姿を隠せば遭遇することもないから」
ああ、レンジュにしろマオにしろ、宦官の人ってあまり人目につかないように行動する義務があるのかな?
天井裏に隠れてたり、木の陰に隠れたりとかしてるもんね。使える姫以外に姿を見せてはだめとか?
忍者とか隠密とかなら、人に姿を見せるのは半人前ってところなのかなぁ。
姿を見なくても匂いで分かるか……。もしかしてそのためにわざと匂いのきつい香油を使う必要があるのかな?
「マオ、ってことは、私も毎日この匂いさせたほうがいいのかな?……」
ちょっと涙目になる。
「鈴華様~、どちらにいらっしゃいますか?鈴華さまぁ~」
苗子の声。
「え?梯子がどうしてここに?そういえば、鈴華様は梯子がどうとか……」
やばいっ!梯子が見つかった。このまま苗子が上を見上げれば、私と一緒にいるマオが見つかっちゃう。
ん?見つかってもいいのかな?
と、振り返るとマオはすでに姿を消していた。どこに行ったんだろう?素早い。
さっさとおりましょう。梯子に手足を伸ばして下りていくと、真下にやってきた苗子が上を見上げて悲鳴を上げる。
「鈴華様っ!危ないですっ!おやめくださいっ!ああ、それに、袴の中が丸見えですっ!」
真下に入ればそりゃぁねぇ。丸見えだよね。でも下は着物だから足も見えないでしょ?
苗子が頭を押さえて下を向いた。
「せっかく、他の姫様にも引けを取らないほど髪も顔も整えて美しくなったのに……まさか、木に登るとは……」
あきれた?怒った?ごめん……。
「ふふふっ、本当に、鈴華様は面白いですね。今まであった姫の中で一番、面白いですっ。ふふふはははは」
あ、笑ってくれた。
「あのね苗子、木の上で読書ってなんか気持ちよさそうだったから……。でも、もうしないわ」
「え?なぜですか?安全さえ確保できるのであれば止めはしませんよ。安全確保のために、今度木登りがしたくなったらレンジュをそばに置いてください」
……。
「止めないんだ。苗子も変わった侍女よね?ふふふ。でもそういうところ好き」
「ありがとうございます」
苗子が嬉しそうに笑う。
「でも、もうしないわ。だって、次の本が読みたくなった時にいちいち梯子を下りて取りに行くのもめんどくさそうだし、頑張っても本を1冊しか持って上に上がれないもの。やっぱり、手を伸ばせば次の本が取れる場所で読書をするのが一番ってわかったから」
私の言葉に苗子が再び声をあげて笑った。




