好きな物嫌いな物
「黒ゴマ団子、美味しかったよ。レンジュが持ってきてくれた。あんなに真っ黒な食べ物は生まれて初めて見たよ。見た目も楽しかったけれど、最高に美味しかった。ありがとう」
ああ、レンジュさんはやっぱり弟のマオにも持って行ってあげたんだ。なんだかんだと弟思いの優しいお兄さんだよねぇ。
「鈴華も美味しかった」
ん?
マオが人差し指で私の唇をさす。
私も美味しい?ああ、私の感想が聞きたいのかな?
「あ、うん、もちろん、私もゴマ団子は美味しかったよ。というか、まずいと思っていたら作らないから」
「そういう意味じゃないんだけど……まぁいいや。またお願いね」
そういう意味じゃない?
「うん、また作ったらレンジュとマオにもあげるね」
レンジュがちょっと首をかしげる。
「まぁ、今はいいか」
何が?時々会話が明後日の方に行ってませんか?
「そうだ!マオ、ありがとう!本が届いたの!」
先ほどから手に持ったまま存在感を失っていた読みかけの本をマオに見せる。
「仙皇帝陛下に頼んでくれたんだよね?まさか、こんなに早く本が届けられるなんて思ってなくて、本当にありがとう、マオ!」
「大したことないよ……あ、僕にとっては大したことはしてないよ。寧ろ、1か月に1度千冊の本の入れ替えをするのに、レンジュが本を運ぶのが大変だと愚痴ってた」
あああ、そうか。仙皇帝宮の地下書庫と後宮を行き来できるのは、黒の宮の担当の宦官のレンジュだけだもんね。
……ごめん、レンジュ。後でちゃんともっとお礼をしないと。美味しいものを食べたときに嬉しそうだったから、また何かおいしいものを用意しよう。たぶん、仙山にいるとお金をもらっても使えないだろうし……。他に何かプレゼントしたくても、何も持ってないんだよね。必要な物は言えば何でもそろえてもらえるっていっても、お礼の品をレンジュに言って、用意してもらってレンジュに運んでもらって、それをレンジュにお礼として渡すのもおかしな話だし。
「レンジュは何をもらうと嬉しいと思う?」
食べ物以外の案は思い浮かばないのでマオに聞いてみる。
「プレゼントを渡すの?」
マオが嫌そうな顔をする。
「プレゼントじゃなくて、お礼。……お礼といえば、仙皇帝陛下にも何か渡した方がいいかな?……と言っても、何が好きで何が嫌いかも分からないし……仙皇帝陛下なら何でも手に入るだろうからなぁ……」
うーんと頭を悩ませると、マオがぼそりとつぶやく。
「好きな物は面白いこと。嫌いな物は強い匂い」
「ん?それって、レンジュのこと?それとこ仙皇帝陛下?あ、もしかしてマオのことかな?マオ、この匂い臭いって言ってたし」
マオがふっと息を吐く。




