マオ
「マオ、だから、呂国では一般的じゃないから、困る」
マオが首をかしげた。
「嫌?」
顔が赤くなる。
それは、嫌じゃないと思ったからだ。明らかに嫌ならば、木から落下することになっても抵抗して拒否することもできた。レンジュにも怒って二度と顔を出すなということもできた。
恥ずかしいし、照れるし、戸惑うし、ちょっとドキドキするし、なんか、えっと……。でも、好きか嫌いかと聞かれれば、嫌いではない。
かといって、好きだというわけでもない。
うううう。
「こ、困る……」
答えようがなくて、同じ言葉を繰り返す。
「ごめんね……困らせるつもりじゃなかったんだ」
マオがしゅんっと落ち込んだ。
「あの、嫌いにならないで……」
上目使いで不安げに私を見るマオ。
マオの瞳は、木陰になっていても金色できれいだ。
「マオの目は本当にきれいね……」
マオに笑いかけた。
「私ね、視力が悪いからあまり人の顔がはっきり見えないんだけど、本に書いてあったの。目が済んできれいなら大丈夫だって。悪い人、悪いことを考えている人、それから病気の人は、目に出るんだって」
マオは私が何を言おうとしているのか分からなくて首を傾げた。
「だからね、マオの目はきれいだから、マオはきっと心もきれいなんだと思うんだ。悪気はなかったんだよね。だから、嫌いにならないよ」
マオが嬉しそうに笑った。
「じゃぁ、鈴華も心がきれいなんだ」
へ?
「とってもきれいな目をしてる……」
「ふふ、褒めてくれてありがとう。視力は悪いけどね。日に当たらない分日焼けしてないからかな?目も日焼けするんですって。だから日差しの強いときな帽子で影を作ったりして目も守ってあげないとね。あ、そうだ。本に書いてあったんだけど、明るい色は光を反射するんですって。
地面が白いよりも黒っぽいところの方が日焼けしにくいらしいし、まぶしくなくていいって。呂国の黒は、不吉色だとか闇色だとかいうけれど、いいこともあるんだよね。なんでもっといい面が広まらないのかなぁ?」
マオの綺麗な目がまっすぐ真剣に私の目を見てるものだから、なんだかさっきのキスも思い出しちゃうし、思わず照れ隠しに早口で知っていることを口にする。
「目だけじゃないよ……鈴華は全部きれい……」
うー、顔が赤くなる。
何言ってるのっ!
にこっと特別に美しい顔をしたマオが微笑んだ。
綺麗なのはマオの方だよっ!
「そ、そうだよね、えっと、髪の毛、自分でもこんなにきれいな髪になるとはびっくりしたもの。黒くてつやつやで、綺麗だよね。黒ゴマ団子もつやつやできれいだけど負けてないよね」
マオがぷっと噴出した。
「なんで、そこで黒ゴマ団子が出てくるの?鈴華は面白いね」
「あ、いや、でもね、髪も繰り返し繰り返し丁寧にとくと艶が出てきて、黒ゴマ団子も繰り返し繰り返しゴマを擦ると艶が出るから、同じ……みたいな?あ、黒ゴマ団子を見たことないんだっけ?」
マオは楽しそうに笑ったままだ。




