目指すところ
ガサガサっと周りの枝が揺れて、葉っぱが落ちる。
「え?何?!」
風が強くなってきたのだろうか。読書に集中して気が付かなかった。
「あぶなっ!」
ドンッと何かが横からぶつかり、木の枝から落ちそうになったところを、細いけど力強い腕に支えられて落ちるのを免れる。
「だ、大丈夫か……」
焦った声。
「お前は何者だ、どうしてここにいる」
「マオ、ごめんね、マオがうらやましくて」
しっかりと木の枝の上、半分抱きしめられるように支えられて、ほっとして声の主……マオの顔を見る。
「え?鈴……華?」
マオがびっくりしている。
髪がつやつやで別人かと思った?
「なんで、こんな臭いにおい……」
へ?
マオがぼそりとつぶやいて慌てて口を閉じた。
「あ、いや、違うんだ、その……」
女性に向かって臭いはないよねぇ。まぁ……でも。
「だよねー。臭いよね。これ、ほんのかすかに香るならいいけど、全身にまんべんなくきつい匂い塗りこまれてね、もう鼻が馬鹿になっちゃって、忘れてた」
へへっと笑う。
「あ……ごめん、本当に。その。口に出して言うことじゃなかった。なんか、急に他の姫と同じ匂いをさせてるから……びっくりして」
他の姫と同じかぁ……。やっぱりみんなバラの香油まみれにされてるのか。
「でも、どうして急に?臭いと思ってるのに……」
マオの言葉に首をかしげる。
「後宮にいる女性のたしなみ?よくわからないけれど、湯あみ係のなすがまま……」
マオが不思議な顔をする。
「なすがまま?鈴華が嫌なら断ればいいんじゃない?」
うーんと首をひねる。
「なんていうか、仕事だと思ってあきらめたというか……」
「仕事?」
「よくわからないけど、仙皇帝陛下のために自分を磨くのが後宮にいる姫の仕事……?」
マオの両手が私の背中に回る。
え?
「仙皇帝妃を目指すことにしたの?」
抱きしめられてる?なんで?別にこんなにぎゅーっとしなくても枝から落っこちたりしないと思うけど。
「ううん、むしろ他の姫が仙皇帝妃になるにはどうすればいいのかって考えてる。30年も姿を見た人がいないっていうのは本当なのかなぁ。できれば私が後宮にいる間に誰かを妃にしてくれるといいんだけど……
ぎゅっとマオの手の力が強くなる。
ちょっと痛いくらいだ。どうしたんだろう?
不安?怒り?いや、私の話にそんな要素ないよね?
あ、もしかして、臭いって言っちゃった手前、逆に鼻を馬鹿にしようと頑張ってくれてるとか?
「仙皇帝妃を目指さないのはなぜ?」
なぜって、むしろ目指す人は何で目指そうとしてるんだろう。




