クスノキの人
「クロモジも生えてる。これも黒い実がなるけれど、ユズリハとはちがって役立つのよね」
実を食べておいしいわけじゃないけど。咳止めや下痢止めになるんだよね。薬用酒にするといい。
「ああそうだ。入浴剤用に葉っぱを少しちぎろうかしら」
湿疹予防になったはず。それに香りも楽しめる。
「あとは何が生えているのかしら」
楽しい。
国にいた時は本を読んでも実物を探そうとするといろいろ大変だった。
だけれどここでは、一か所にこれだけいろいろな物が揃っているなんて。
「詳しいな」
へ?
だ、誰?
きょろきょろとしたけれど誰の姿もない。
「ここだ、大きな木を見ろ」
大きな木?
「クスノキのこと?」
巨木といえばクスノキ。左斜め後ろの位置にクスノキがある。
「ああ、この木はクスノキと言うのか」
クスノキの上から声が降ってきた。
見上げれば、太い枝に誰かが腰かけている。木の葉の陰で足元しか見えないけれど、声の主に間違いないだろう。
男の人の声だ。
え?
男の人?
後宮の内側に?
「そうです。クスノキも黒い実がなります。とても耐久性が高いので、宝物庫など大切な建築物に使われます。それから防虫効果があるので箪笥の材料にも使われます」
ふぅんと男の人は面白そうに返事をする。
「その知識は、お前の何に役に立っている?」
へ?
何に?
知識は役に立てるために身に着けるものだろうか?
確かに役には立たない知識の方が世の中には多いかもしれない。だけれど……。知っていればある時ふと何かに役に立つこともあると思うんだけれど。
即答できずに答えに窮していると、男の人がさらに質問を重ねる。
「お前に必要なのは、今はやっている服装の知識や情報ではないのか?化粧の方法や、男性を喜ばせるための会話術……そういう知識が役に立つんじゃないのか?」
……あー。
身に着けた飾り気の少ない、流行おくれというよりは、流行に左右されない袴に視線を落とす。
呂国では、ドレスではなく、着物にふわりと広がった袴を合わて着ることが多い。
女は着飾っていればいいっていう意味なのかな。
本ばかり読んでいる私をよく思わない人も確かにいた。かわいげがない。女らしくない……と。幸い家族は私の個性として受け入れてくれたけれど、教育係の先生ですら、眉をしかめてもう少し別のことにも目を向けなさいと言っていた。
……結局のところ……。
「私、役に立てたいからと知識を身に着けているわけじゃないんです。知ることが楽しいので。好きなだけなんです。例えば、このクスノキ。大きな木ということと、防虫効果があるということこれは本に書かれていることです。虫に強いから、虫からの被害が少なくて大きく成長するんだと思ったらなるほどと楽しくなりませんか?それから、例えば香木で作られた仰ぐとよい香りのする扇子は高価ですが、クスノキで作った扇子はそれほど高価ではありません。ですが、防虫効果があるので衣類と一緒に保管すれば役に立ちますと言えば付加価値が生まれます」
ぷっと男の人が笑う。
「なるほど。しっかり役に立ってるみたいだね」
へ?
読んでくれてありがとうございます(*'ω'*)
勉強も努力も知識も経験も、無駄だと思う気持ちの人は、きっと役に立てることはできないんだろうなぁと思います。
努力なんて、結果が出ないと無駄だと思うのは大間違いで、努力できる人間に成長してるってすごいよ。
体重減らなくても毎日ちゃんとジョギングできる人ってすごくない?ダイエットに効果なくたって健康になるだろうしさ。……毎日……うっ、だ、だれか、努力の才能ください……( ノД`)シクシク…
ナメクジは塩をかけても死なないなんて知識とか
カタツムリはニンジンを食べるとオレンジ色のフンをするとか
そういうどうでもいい知識……役に立ててやるんだっ、いつか、いつか、……いや、たぶん役に立つことはないな。ちなみにカタツムリってティッシュも食べちゃって、ティッシュを食べると白いフンが出るんだぞ。
……岐阜の科学館とかでやってた。