ゆーあーみー
「御覧ください、鈴華様、せっかく美しく装ったというのに、隠すのはもったいないですわ」
と、鏡を指し示す。
……見えないですよ。自分の顔。
うーんと目を細めて鏡に映った顔を確かめようとする。
「うっ、その顔は……おほんっ」
苗子が慌てて咳ばらいをして、頭に小さな帽子のようなものを載せた。ピンでとめると、帽子についていた薄手の黒い布を垂らす。
鏡に映った私の姿は、その薄手の布で顔の上半分が隠されている。
けれど、内側から明るい場所を見ればちゃんと透けて見える。
前髪を垂らしていたときよりも視界はいいし、額から距離がある分暑くても汗で張り付くこともなさそうだ。
これで心置きなく目を細めて物を見ることができる。それに、布を上にあげれば、すぐに顔を出すこともできる。前髪だと、整えたりなんだとめんどくさいこともある。
「ありがとう、苗子。気に入ったわ!」
布を上げて、苗子に顔を向けてにこっと笑う。
「うっ、鈴華様、布を上げているときは常にその表情でお願いします。」
うっって何。うって。いつも笑っていなさいということ?そんなに目を細めた顔は怖い?
ああ、違う。笑っていればどんなに醜くてもそこそこ見ていられるとかなんか本に書いてあった。それなのね。女は愛嬌ってのを実践しなさいってことね……。笑っていれば、朱国の姫スカーレット様とも友達になれるだろうか……。
「化粧映えする顔って、こういうことを言うのね……。あなたたち、グッジョブよ!」
苗子が何か湯あみ係に指を立てている。
「ありがとうございますっ!でも、鈴華様の素材が素晴らしかったからこそ」
素材?
「これならワンチャン」
「外の姫に引けをとらない」
など、なにやら湯あみ係が浮足立って話をしている。
背中に流していた髪の毛を一筋取ってみる。
うん、確かに。ワンチャンって誰のことか知らないけど、ほかの姫に引けを取らないというのには賛成できる。
私の髪質……元の素材がこんなに良かったなんてねぇ。呂国では髪は女の命って言葉があるくらい、髪が美しいのはいいことなんだよね。
とはいえ、綺麗になったからと言って、何の役にたつのだろう?
国を傾げる。
……ああ、そういえば、マオが私に「本を読んで何の役に立つんだ」と聞いたことがある。
私は楽しいと答えた。
そうか。これが楽しい人もいるんだ。私には苦痛な時間でも……。役に立つとか役に立てようでなくて、楽しいと思う人がいる。
と、いうことは……。
楽しいことをもっと楽しくできる人材ならば、必要とされるんじゃない?
「ねぇ、えーっと、シャンシャン、お風呂には何を入れることがあるの?」
「何とは?」
ん?湯あみ係のリーダーのシャンシャンが首を傾げた。




