艶だし
ううう、うう。午前中が飛びました。
サウナから始まり、あかすり、湯船につかって、体を洗って、頭を洗って、オイルマッサージして……それから、なんかいっぱい塗りたくられて……仕事を覚えようと、途中まではしっかり起きていたけれど……。じっと寝転んでいるだけだと、どうしても眠くなって……ぐぅー。
「苗子、なんであんなに時間かかるの?ほかの姫は毎日あれに耐えてるの?」
「耐える?」
苗子がちょっと困った顔を見せる。
「後宮では、ほかにすることも少ないですし……一番美しい姿で仙皇帝陛下をお迎えするのは、姫たちの務だからじゃないでしょうか?」
「あ、なるほど。仕事かぁ……仕事……。本にも書いてあったね。働かざる者食うべからずって。そっか、あれ、仕事なんだ……なら、仕方がないかなぁ……」
私の髪を柘植の櫛で何度も何度も解いていた湯あみ係の一人が心配そうに尋ねてきた。
「あの、そんなに私たちは下手でしたでしょうか。耐えなければいけないほど……。仕事だと割り切らないと我慢でなないような……」
「ああ、違うの。ごめん。思わず寝ちゃうくらい気持ちはよかったんだけど、えーっと、時間がもったいないなぁと思って。ほかにやりたいことがあるのに……と、思うと」
本を読んだり、読書をしたり、書物に触れたり、文字を目で追ったりしたいのっ!
「だいたい、私なんてどんなに磨いたってしれてるでしょ?せっかくこんなに丁寧にしてもらってもね……」
同意を求めるように苗子に視線を向ける。
「何をおっしゃいますやら。もうすでに見違えるようですよ?」
と、苗子が私の髪をひとすくい手に取った。
「へ?あれ?これ、私の髪?すごい。なんか、すごいつやつや」
柘植の櫛で丁寧にブラッシングをすると髪につやが出るとかいうけれど、本当だったんだ。
「そっかぁ、黒ゴマも、丁寧に時間をかけてすりつぶすとつやが出るもんね。髪もおんなじなんだねぇ。本で読んで知ってはいたけれど、こうして本当につやが出るの見ると、感動するね。ありがとう」
ブラッシングしてくれている湯あみ係にお礼を言う。
「あ、は、はいっ。あの、美容のことなら任せてくださいっ!」
ほっぺたを赤くして気を付けをする湯あみ係。
うん、私もそういうプロフェッショナルにならなくちゃ。スカーレットちゃんと仲良くなっても仙皇帝宮に連れて行ってもらえないと困る。
「黒ゴマ団子と、髪を同列に語る姫様は……ぷぷっ、初めてですよ。くすくす」
苗子が笑い出した。
え?だって、つやが出るって点で同じだから、同列に語るのおかしくないよね?
丁寧に丁寧にといてつやつやになった髪を、別の湯あみ係が編み込んでいく。後ろの髪は流れるように。サイドの髪は複雑なみつあみにして頭にお団子にして止めた。前髪も、サイドの髪と一緒にまとめられてしまったっ!
「まって、まって、前髪がないと、困る、困るっ」
あたわたとする私の肩を苗子がぽんと叩く。




