したぞ
突然レンジュの大きな体に包まれたかと思ったら、唇をふさがれる。
え?
えええ?
これ、ちょっと、何?
口に練りごまでもついてた?って、違う、絶対そんなんじゃないよね……。
「これで、俺の話を聞く気になったか?」
唇を離したレンジュがにやりと笑っている。
「い、今の、まさか……」
本で読んだことはある。
わなわなと震える。
本に書いてあったことは、嘘だと思っていたけど本当だったんだ……。
「何、震えてるんだよ?怒るなよ。責任を取って嫁にするから問題ないだろ?」
びしぃっと、皿を持っていない手を突き出す。
「本で読んだわ!レンジュは翠国の人でしょうっ!翠国の人は挨拶でキスをするって書いてあったものっ!髪も瞳も茶色いからどの国出身かわかりにくかったけれど、これではっきりしたわ!」
どや顔をレンジュに向ける。
「は?」
「びっくりした?ふふふ。本を読んでいれば、遠く離れた国の風習も知ることができるのよっ!」
まぁ、私もびっくりしたわ。
本を読んでいなかったら唇を奪われた!と、いい年して乙女みたいに叫び出すところだった。いらぬ恥をかかずに済んでよかった。
私にキスしたいなんて思う人がいるわけないもんね。でも、挨拶なら私相手でも問題なくできると思う。
「ぶっ、はははっ、面白いな、いや、いや、ははははっ。」
レンジュが腹を抱えて笑い出した。
「お前にとって、キスは挨拶程度のことなのか、じゃぁ、もう一回挨拶しようか?」
レンジュの顔が近づく。
「ちがっ」
挨拶なのは、翠国出身のレンジュでしょっ!
「むむむっ」
慌てて串にささった団子をレンジュの口に押し込む。
「な、なんじゃこりゃ……甘くて……うまいな」
ふぅー。セーフセーフ。いくら相手は男性でなくて、挨拶のつもりでも、こっちは精神的になにかがすり減る。
「でしょ?見た目は黒くて、びっくりするかもしれないけど、おいしいでしょ?」
呂国の食べ物をほめられるとうれしい。
「ああ、うまいな。これは胡麻か?」
「そう。黒ゴマ。すりつぶして、そのまま擦り続けていると油が出てきて、つやが出てくるの。かなり長い時間すりつぶさないといけないから、重労働だし、貴重な黒糖を使うから特別の日に食べるお菓子なのよ」
レンジュがニヤッと笑った。
「ちょうどいいな。今日は特別な日だ」
え?
レンジュが私の持っていた黒ゴマ団子の乗った皿をひょいっと持ち上げた。
「特別?」
「俺と、お前のキス記念日」
は?は?はぁ~?。
「な、何言ってるのっ、挨拶でしょ、ただのっ!っていうか、全然特別じゃないし、返して!レンジュにはもうあげないんだから、返してっ!」
皿を取り返そうと手を伸ばしたら、ひょいっと高くあげられてしまった。
身長差がありすぎて全然届かないっ!
おいこら、レンジュっ
セクハラ、セクハラ、って、鈴華分かってない




