侍女の矜持
「毒見なら、いつでもお任せください」
と、苗子が笑う。
「失礼ね、毒なんて入れないってば」
ぷぅっと膨れると、苗子がてへっと言わんばかりに舌を出した。
「毒見と称して食べることは失敗ですか」
「ふふ、大丈夫よ、みんなの分も作ってもらうから。スカーレット様のところへ伺うのが2時だから、午前中に1回試作してもらって、みんなで午前のおやつとして食べましょう。午後からは贈答用に作ってもらう。2回作業してもらうけれど大丈夫かしら?」
料理人に尋ねると、もちろんですと胸をたたいた。
「じゃぁ、材料は、白いんげん豆、それから……」
慌ててメモを探す料理人たち。あ、これ、前にもやったわ。
「あとで書いて渡します。えーっと、手の空いている使用人から食べてもらいましょう。呼んできて」
使用人たちがおいしそうに黒ゴマ団子を食べる様子を見る。
料理人たちは作っているのを見ていたため、色はさておき材料に不審なものがないのを知っていたからかすんなり口にした。ほかの使用人はあまりの黒いつややかさにひいていた。うん、黒の宮に長年勤めている下働きの人でさえ、黒い食べ物の免疫がそんなにないのかあ。そりゃスカーレット様は嫌がらせだと思うよな。
「私、幸せです……こんなにおいしいものが食べられるなんて……」
楓ちゃんのお母さんが目に涙を浮かべた。
「そうですね。黒の宮の姫様たちは権力争いに興味がなくてぎすぎすした感じがなくて働きやすいだけでなく……このようなおいしいものをいただけるなんて……」
同じように20年近く勤めているという下働きの女性が頷いている。
そうだねぇ。権力争いって、つまりは仙皇帝陛下の寵愛を受けようとっていうことだよね?ずっと呂国から妃は出ていないし、これからも出ないだろうといわれてるから、あきらめが早いんだよね。ついには、こんな私が後宮に送られるくらい、国も期待してない。なので、姫たちも「我が国のために、何としても妃になるのだ!」っていうプレッシャーを受けることはないからなぁ。
仙皇帝宮でいつか働きたいと野望に燃える使用人もいれば、逆にそういったことから遠ざかりたい使用人もいるんだね……
ぽろぽろと今は床磨きの仕事をしているらしい侍女の一人が涙を落とす。
「一度は辞めなさいと言われた私たちにも……こうして、同じようにおいしいものをくださる……」
いや、ごめんって。辞めてもいいよは親切のつもりだったんだよ……。
「わ、私……本当は、黒の宮の侍女になりたくなかったんですっ」
あ。知ってる。
「今は、黒の宮の侍女になりたいですっ!」
ん?もう侍女でしょ?
あれ?別の仕事させられてるから?侍女という実感がない?




