同情
「ああ、どうしよう、準備が済んでない、あ、でも謁見控室って椅子のなかったのよね。待たせるわけには、いいわ、こちらへ通して」
「こ、こちらに、ですか?」
苗子が驚いた表情を見せる。
「だって、今からあれこれ部屋の準備してたら待たせちゃうし、えーっと、とりあえず、こちらで準備が整うまで待っていただくってことで?お茶もここならすぐに出せるでしょ?」
と主張すると、苗子が侍女にスカーレット様をお連れするようにと声をかける。
食堂といっても、ここは従業員用ではなく、お客様用のちゃんとしたほうなので問題ないよね?
食堂の入り口に、スカーレット様とその侍女4名が姿を現す。
「ようこそ。いらしていただいてうれしいですわ。あ、えーっと、どうぞ、おかけになって。急なことで何も準備が整っていなくて申し訳ありませんが……」
と、多少言葉遣いを丁寧にスカーレット様に伝える。
座ってといったけれど、スカーレット様は動こうとしない。
「あの、ごめんなさい、えっと、上座とか下座とかその、関係なしで、えーっと、好きな席に座ってもらえればいいから。あーっと……」
と、慌てて言葉を足す。
本によると、上座とか下座って、国によってもいろいろ違うんだよね。食事に関しても、招いた側が先に食べるマナーもあれば、招かれた側が先に食べるマナーもあって……。朱国ではどんなマナーだったのか復習する暇もなかったよ。
というか、本は家だ。あー、赤の宮の侍女してたえっと、名前なんだったかな、そう、ジョアだ、ジョアに聞けばわかるかな。いや、苗子でもその辺のマナーは知ってるかな。
ピクリとも動かないスカーレット様は、テーブルの上の黒ゴマ団子を見ている。
「なぜ、泥団子が載っているんですの?」
はい?
泥団子?
黒ゴマ団子が積みあがった皿を見る。
うーん、確かに、泥団子に似てなくもない?
「泥団子じゃないですよ、えっと、おいしいんです。呂国の西の地域で特別な日に食べるお菓子で……」
小皿に黒ゴマ団子と串を載せて差し出す。
すると、スカーレット様は小刻みに震え出した。
「嫌がらせのつもり?」
へ?
そうだった。黒い食べ物じゃないものにしようと思っていたばかりだというのに。本当においしくて、つい勧めちゃった。
「いえ、そんなつもりはなくて。本当においしいんです」
嫌がらせじゃないことを証明しようと、黒ゴマ団子を口にする。
「はー。おいしい」
誤解を解くための行動が、なぜか裏目に出た。スカーレット様は顔を真っ赤にする。
「特別な日に食べるお菓子を、毒見をして出したにも関わらず、一切手を付けなかったと、私を責め立てるつもり?赤の姫は呂国を侮辱したと、仙皇帝陛下に泣きついて同情を買うつもり?」
ええええ?




