呂国の庭
部屋に1人残されてしまった。
本で読んだ千山の地図を思い浮かべる。
中央に仙皇帝陛下の住まう10階建ての塔。仙皇帝宮御殿がある。
その周りに8つの区域に分かれた中庭。
そこは、8つの国をそれぞれ小さくしたように、それぞれの国の特徴を持った庭だと言う。
春の国では春の植物が季節を問わず花をつけ、秋の国では秋の恵みがたわわに実る。海の国では小さな海もあるらしい。
流石、仙気に満ちた仙山の頂上と言うべきか。仙皇帝陛下の仙術の力のおかげと言うべきか。
不思議と小さな国が再現されたようになっているらしい。
その庭の回りをぐるりと取り囲むように輪っか状の建物がある。それが後宮だ。
後宮も8つの区画に分かれている。
それぞれの国の姫が生活するための場所となっている。端から端まで移動するだけで10分はかかるらしい。とんでもない広さだよね。だって、一周しようと思うと、その8倍。1時間半歩き続けないといけないっていうことだもの。
それぞれの区画の作りはほぼ一緒。姫の部屋。使用人の部屋。調理場。納屋。来客をもてなすための迎賓室。謁見室など……で、たぶん今いる私の場所は、呂国の謁見室の前の控室だよね?この場所には案内なしで後宮の人間ならば立ち入ることができるって話だ。本で読んだ知識ではそうなってた。
今の呂国の後宮……黒の宮の主は私で、私はまだ到着したばかりで何かを許可した覚えはない。ということは、朱国の姫と金国の姫がいたのだから、許可なく入れる場所謁見控室で間違いないと思うんだけどなぁ。
んー、案内してくれた人……いや、仙人さん?がここで待つようにって言ったけど。
妹の話や本の情報によると、この後、たぶん私付きの使用人との顔合わせなんだよね?
後宮には姫一人で行く決まり。どの姫も侍女一人連れてこられなくて、全部のお世話は仙山に住む人たちになる。なんか、姫の手足として動く人がいると、他の姫に毒を盛るとかなんかめんどくさいことが起きることもあるからだとかなんとか。
そんなことしたらそれこそ仙皇帝陛下の怒り買うのにねぇ。
謁見控室には椅子一つない。
んー、いつまで待てばいいのかなぁ。勝手に動き回ったらダメかな?
退屈だなぁ。本があればいいのに。
窓を開けると、木々が生い茂った中庭が見える。
……確かに、呂国の風景に似た庭だ。花よりも、食材になる植物が多いあたり。
「あ、これはナツハゼね」
春には葉が赤くきれいな木だ。呂国の色っぽくない植物だけれど、秋には黒い実がなる。
「楽しみ……。ナツハゼの実はほんのり甘くて酸味も少なくて美味しいのよね」
気がつけば、自然に足が庭に向いていた。
「こっちはユズリハだわ……」
眉根が思わず寄る。
ユズリハも黒い実がなるのよね。時々ナツハゼの実と間違えて毒に当たる子供がいる危険な木だ。
世界はなんちゃって世界ですが、植物食べ物などは地球に準じています。
ので、出てくる植物動物食べ物は存在します。特徴もそのままです。