猫の読み方はマオ
「レンジュ、聞こえてる?ねぇ、レンジュ、手伝うから、ねぇ、手伝う」
本をおろしたことで空いたレンジュの腕をつかむ。
だって、天井裏とか木の上とか、すぐに逃げそうなんだもんっ。このチャンスを逃してなるものか!
「ちょっ、な、何勝手に俺に触ってるんだよっ」
レンジュが顔を赤くして私を引きはがそうとする。
「離すと、逃げるでしょっ」
「いや、逃げない、逃げないから、離せって」
逃げないといいつつ、私をずるずると引きずるように庭の奥へと進んでいく。
明らかに逃げ腰だし、手を離した瞬間、目の前から消えるやつだ。私にはわかる。
「あー、もう、手伝ってくれようとするのはありがたいけどな、仙皇帝宮に女を入れるわけにはいかないって」
う……。
レンジュの腕を離す。
「そっか……」
シュンっと、頭が下がる。
あまりに落ち込んだ姿にレンジュが慰めるように優しく声をかけてくれた。
「まぁ、方法がないわけじゃないぞ……」
レンジュの大きな手が私の頭をなでている。
「方法?侍女として働くとか、下働きとして働くとか?」
ゆっくり頭を上げて首をかしげる。
「あー、まぁ、仙皇帝妃が決まれば妃の世話をする者なら女でもはいれるようになるが……」
やっぱり!妃の侍女なら入れるんだっ!」
「それより、俺の嫁になったほうが早いぞ?」
へ?
「仙皇帝宮に行きたいなら、俺の嫁として行くか?出入り自由だぞ?」
す、すごい!なんか、宦官の権利すごい!
って、まって、宦官と結婚なんてできたっけ?
あれ?宦官辞めることができるんだっけ?あれ?
「兄さん、何くどいてんの?」
は?
頭上から声が降ってきたかと思うと、私とレンジュの間に人が上から割り込んだ。
「おう、なんだ、お前、仕事は?」
レンジュを兄さんと呼んで降りてきたのはマオだ。
「マオっ!ありがとう!本、本当にお願いしてくれたんだっ!」
まずはお礼!
どれだけ私がうれしかったか伝えないと!
「ぶっ、何、お、お前、マオって……猫って呼ばせてるの?ぶぶぶっ、はははっ」
レンジュがげらげら腹を抱えて笑い出す。
「兄さんこそ、レンジュって何ですか?というか、後宮の女性を口説くなんて、仙皇帝に対する反逆とみられますよ?」
目の前に立ったマオは、背丈は私より頭半分くらい大きい。スマートな体系。私より頭2個分は大きくて、筋肉がっしりついた大柄なレンジュととても兄弟には見えない。
……それとも、宦官たちは、お互いのことを兄弟として先輩を兄さんと呼ぶ習慣でもあるんだろうか?
確か遊郭では先輩の女性のことを「姉さん」と呼ぶと本で読んだ。血のつながりのある姉妹じゃなくても、先輩はみな姉さんだ。




