各国
「全く、何度言えば……鈴華様も怒っていいんですよ。あんなに気軽に鈴華様の頭に触れるなんて……しかも、猫に似てるとか失礼な理由で……」
苗子がぷんすか怒っている。
「ふふ、私のことでそんなに怒ってくれてありがとう。でも、平気よ。寧ろ、黒が不吉な色だからと近づくのも嫌だと言われるよりも嬉しい」
私の言葉に、苗子がハッと息をのんだ。
「私も……黒が不吉だなんて思っていません……。鈴華様の御髪を整えるのはとても楽しみです」
「と、整えるって……えーっと、結い上げるってこと?」
ぎくりと体を固くする。
いや、もう、めんどくさいから、あれも。
本に髪が落ちてこないように、後ろでざっくり結ぶだけでいい。
「まさか、鈴華様、レンジュに頭を触られてもいいけれど、私に髪を触られたくないなんて、そんなこと言いませんよね?」
苗子が悲しそうな表情をする。
「え、い、いや、その……も、もちろんよ。苗子に触れられるんが嫌なんてこれっぽっちも思ってないからね?」
苗子が私の言葉でにっこり笑った。
「それはよかったです。では朝食の後にしっかりと手入れをさせていただきますね」
ワキワキと苗子の手が動いている。
う、うう、何?怖い。ちょ、誰か、体を貸して!体の後ろに隠れさせて!
……あれ?なんだかそういうのどっかで見た気が?
食堂に到着すると、使用人苗子を抜いて総勢19名が壁際に整列して並んでいた。
テーブルには、パンとスープが並んでいる。一つだけパンとスープのほかに卵とサラダが乗っていた。どうやらあれが私の食事の用だ。
そうか。ここでは朝食はパンか。呂国では朝食はおかゆが多かったんだよね。頼んでみようか。明日からはおかゆでと。
まぁ、でもパンも嫌いじゃないし、自由に作ってもらっていたほうが知らない料理に巡り合える可能性も高いよね?
「席について、食事を始めましょう。あ、それから自由に発言してもらって構わないので。寧ろ、早く後宮のことを知りたいので、いろいろ教えてほしいの。えーっと、知っていることを教えて」
まずは私が席につかなければ他の人も着席しにくいだろうと、席について早速パンを手に取って食べる。
それを見て、苗子が他の使用人に小さく頷いて見せてからスープをすくって飲んだ。
「いただきまーす。お腹すいてたんだ!」
と、元気な声をあげたのは、楓だ。成人したばかりで下働きとして働き始めた一番若い娘。
「これ、姫様の前でっ」
隣に座っているベテランの母親が楓を小さくしかりつけている。
「ふふっ、自由に発言していいと言ったのは私だから。じゃぁ、食べながら皆も話をしてね。えーっと、他の国の姫様について知りたいんだけど。知っていることを教えてほしいの」
と、皆の顔を見渡す。
「今、後宮にいるのは、この黒の宮のほかに、左に位置する朱国の姫がいる赤の宮、右に位置する金国の姫がいる金の宮。その隣の藤国の姫のいる紫の宮ですね」
ん?
んん?




