朱国の姫、立ち去る
「そ、そりゃ、この30年、誰も陛下の寵愛は受けられませんでしたが、今日にはお召しがかかるかもしれませんのよ!呂国は陛下を愚弄するつもりで、あなたのような醜女を送ってきたと怒りを買っても知りませんからね!」
怒ってる?
金国の姫は、ずんずんと歩いて部屋を出て行ってしまった。
「あなた、今前任の第3王女を妹って言っていたけれど、何歳なの?」
朱国の姫の質問に小さくお辞儀して答える。
「名前も名乗らず失礼いたしました。呂国第一王女の鈴華と申します。今年で26歳になります」
「はぁ?26歳?とんだ年増じゃないっ!容姿が醜いだけじゃなくて、そんなばばぁを……呂国は何を考えているの?そんなに仙皇帝陛下の怒りを買いたいの?」
年増。
まぁ、確かに。後宮に送られる姫は15歳~20歳が多いと聞く。20歳で入って3年いれば23歳だ。
結婚適齢期が18歳~22歳と言われているから、23歳で後宮を持して国に戻るとぎりぎりそれなりの相手との縁談が結べる。
……私はすっかり結婚適齢期を過ぎても独身。世間では行き遅れの女だ。いくら王女の地位があるといっても、この年ではろくな縁談話はない。
というか、20歳を前にした婚約破棄以来、結婚の話などとんと出てこない。
まぁ、結婚する気がないから全然平気なんですけど。だって、本を読むのが楽しすぎて、結婚して自由な時間が無くなるのが嫌なんですもの。
「それが、本来は第3王女の次は、公爵家の次女を養女にして後宮へ行っていただく予定だったのですが、好きな方がいるからと断られ、その次の予定の第四王女はまだ13歳で、成人するまでのあと2年、臨時で私が送られることになったのです……」
どうせ仙皇帝が姿を現すことなんてないんだから大丈夫大丈夫と、妹は笑った。
どうせ呂国の姫が寵愛を受けることなどないのだからと、父も笑った。
そう、呂国の色の黒が悪いのか、単に偶然が重なっただけなのか、各国の姫を一人ずつ仙皇帝妃候補として後宮へ入れようという制度が始まってから400年あまり。呂国の姫が選ばれたことは一度たりともないのだ。
そして、仙皇帝陛下の仙術で、寵愛を受けた国は栄えるというけれど、呂国は民がそこそこ幸せに生活できる程度には栄えているので、特に寵愛を必要ともしてない。
怒りを買うと災害が起きるというから、怒りを買うのはさすがにまずいとは思ってはいるけれど……。
何とかなるでしょ。
もし怒らせても、謝れば許してくれるんじゃないかな。
歴代の仙皇帝の本をいろいろ読んだけれど。怒りに触れるって、民に重税をかけたとか、他国へ政略戦争を仕掛けたとか、そういうのだったんだもん。
まさか、ブスを後宮に送ったから腹が立った、災害を起こしてやるっ!なんて小さな男じゃないはずだ。
「ご心配ありがとうございます」
「しっ、心配なんてしていませんっ!」
朱国の姫はぷいっと顔を背けて去って行ってしまった。
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