本と
恋だ。そう、これが恋に違いない。私、本の妖怪だもの。本に恋したって不思議じゃない生き物……。って、違う違う。人間、人間だよ。でも本が恋しいのは本当だ。
「まぁ、仙皇帝宮や後宮の情報なんていたことのある人間しか知らないからな。外に伝わっていないこともあるんだろ。で、どんな本が読みたいんだ?歴史か?地理か?それとも、恋愛小説の類か?100冊でも200冊でも貸してやる。残念だか贈るわけにはいかないから貸出になるが……」
100冊でも200冊でも?
「だったら、毎月1000冊ずつ。ジャンル問わず黒の宮に運んでもらうことはできますか?黒の宮の空き部屋を図書室にしてほしいですっ。でも、できれば本当は……」
と、そこまで行ったところで苗子の声が聞こえてきた。
「鈴華様~、お食事の用意が整いました。どちらにおいでですか~」
苗子の声のしたほうに顔を向け、再びクスノキの木を見上げるとマオの姿はなかった。
「ああ、よかった。鈴華様ずいぶん明るい表情をしていますね」
苗子がほっと息を吐き出す。
もしかして泣きはらした顔を見て苗子は私のことを心配してくれていた?
マオに伝えられなかった言葉。
本当は……行きたい。
仙皇帝宮の地下にあるという書庫に行きたい!ううん、なんなら書庫に住み着きたい!
仙皇帝宮……。そこに見えているのに。
許可された人間しか立ち入ることができない場所。
「お、おはようございます、鈴華様」
朝食を取ろうと黒の宮の食堂に向かう途中、庭に出てきていた湯あみ係4人と侍女3人と庭師が頭を下げている。
「あ、あなたたち……」
噂をしていた侍女たちは、仙皇帝妃に選ばれた姫と一緒に仙皇帝宮に行きたいと言っていたのではないか。
仙皇帝宮に行きたいのは、書庫に行ってみたいからなんじゃない?
書庫に行きたくて行きたくて本に囲まれたくて仕方がないのに、唯一の書庫に行く方法……。仙皇帝妃の侍女となり仙皇帝宮で務める……その道を、選ばれる可能性が全くない呂国の黒の姫担当となれば……。そりゃショックだよね。
本に囲まれる夢が遠のくんだもん。
ごめんね。
やっとわかった。
「苗子、この子たちを元の仕事に戻してあげて……あ、でも本当に湯あみは一人でいいし、侍女も苗子が手が回らない部分だけでいいから、えっと、一緒に仙皇帝宮を目指しましょうね?」
という言葉に、皆が絶句。唖然としている。
あれ?そんなにおかしなこと言ったかな?まぁいいや。とりあえず朝食朝食。
苗子と二人で廊下を進むと、天井裏からレンジュが下りてきた。
「おいおい、どうしたんだよ。急に仙皇帝妃を目指すなんて言い出して」
へ?
「私、そんなこと言ってませんよね?」
2020年もよろしくお願いいたします。
勘違いが、あちこちで発生しているなど……




