恋する5秒前
「宦官と言うことにしておく?もしかして、ここでは宦官は宦官という呼び方はしないの?」
レンジュは宦官だと言っていたけどな?分かりやすくそう言ってくれてただけなのかな?
呂国には宦官の制度はないけれど、他の国の後宮や高位貴族の屋敷には後宮が務めていることは珍しくないっていう話だ。男手は必要だけれど、女性に手を出すような男を大切な女性に近づけたくないという人間が宦官を採用するとか。
仙皇帝の後宮に宦官が働いているという話は本には書いてなかったのは、単に宦官を別の名前で呼んでいるからなのかも。なんと呼ぶんだろうか。
「好きに呼べばいい。で、鈴華はなんで泣いてたんだ?いじめられたわけじゃないんだろ?」
うー。教えてくれないのか。仕方がない。もしかすると隠密のように広く知れ渡らない方がいい情報かもしれない。レンジュといいマオといい、普段は天井裏や木の上や目立たない場所にいるわけだし。
「あー……」
本がなくて泣いたなんて言ったら信じてもらえるだろうか?
「誰かにいじめられたわけじゃないけれど……あえて言うならば仙皇帝陛下にいじめられたようなものかな?」
本が1冊もない後宮を作った。
「は?いじめてないぞっ!」
マオが怒って否定する。
しまった。仙皇帝陛下の悪口みたいになってしまったか。これはまずい。
「あ、言葉の綾というか……。その、後宮に本がないのが悲しかったんです。その後宮は仙皇帝陛下の物なので、なぜ本を置いてくれなかったのかと……」
「あー、そういうことか。それは仙皇帝じゃなくて後宮を作った人間が悪いんだろう。仙皇帝は悪くないから嫌うな」
マオのほっとした声が聞こえる。
「それから、泣かせて悪かった。遠慮せずに僕に……いや、宦官、レンジュに言えばいい」
「マオが私を泣かせたわけじゃないでしょ?なぜ謝るの?」
「あーっと、いや。うん、ほら、後宮側の人間として、な?」
そうか。マオは責任感が強いんだね。
「本なら、世界中の本の写本が仙皇帝宮の地下書庫に何万冊もある。どんな本が読みたいんだ?どんな本だろうとすぐに準備させるぞ」
「嘘だ!」
そんな馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。
「嘘とはなんだ、嘘じゃない。どんな本でも準備させる」
「仙皇帝宮のあの塔の地下に書庫があるなんて、どの本にも書いてなかったっ!何万冊も……世界中の本があるなんて……そんなの……初めて聞いた」
私が、そんな大切な情報を今まで知らなかったなんて、嘘でしょう。生きている間に読み切れないかもしれない、そんな量の本が……。
後宮の中央にそびえたつ仙皇帝宮を見上げる。
目の前の、あの塔の地下に……目と鼻の先に……。
ああ、胸がぎゅっと締め付けられる。
そうだ、本にこういう症状のことが書いてあった。胸がぎゅっと締め付けられて、そしてドキドキして息苦しい。
本に恋する5秒前……じゃないっての!
こんな話で、2019年終わります……。
今年お世話になりました。ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
(*´▽`*)




