うご
本が、一冊も。
机の上に日記帳にでもするのか中に何も書かれていない本というかノートが1冊あっただけだ。
図書室も、書斎もない。それどころか部屋に本棚1つない。……そして、本は見事に一冊もなかった。
あああああ、明日からどう過ごせばいいのか!
1冊もないというのは、本を後宮に持ち込んではダメということなのだろうか。足りない物は用意すると言っているけれど、生活をするうえで足りない物ではない。私が、趣味で読みたいだけだ。頼んでもいいのかどうかも分からない。
「おはよう苗子……」
「おはようございます鈴華様。その目はどうなされたのですか?」
目?
もしかしてちょっと腫れぼったい感じがするけど、見ただけでもおかしな状態なのかな?
「ああ、ちょっとその……故郷を離れたのでホームシックで……でも大丈夫よ」
慌てて前髪を下ろして目元を隠す。
泣いたのは本当。
……本がないことが悲しくて、悲しくて、いつも寝る前に何か読んでいたから。急に本がない生活になってしまって……。
本の妖怪とまで呼ばれた私ですから……。本がないと頭の皿が乾いた河童のようなもの……。って、本格的に妖怪になるつもりはない。
「ちょっと、朝食の前に散歩してくるわね」
庭に出る。
本は無くても、庭には本に出てきた本物があるのだから……。
庭にでると、雑草も落ち葉もなく、とても地面がきれいになっていた。
……頑張ってみんなできれいにしてくれたんだね。
「でも……ダメだわ……」
雑草という草はないって本に書いてあった。一つずつ名前がついているし、実は胃腸の調子を整えるだとか、痛み止めになるだとかいろいろな効能があるものもある。
やみくもに引き抜いてきれいにするのも考え物ね。
今までは庭師が一人だからそこまで手が回らなかったのが、昨日は10人に増えたから……。うーん。庭掃除以外の仕事を苗子に探してもらわないと。つまらない庭になっちゃいそう。
「どうした、いじめられたのか?」
え?
心配そうな声が上から落ちてきた。この声は……昨日の?
クスノキを見上げれば、昨日と同じ足が見える。
黒いショート丈のブーツに、金糸の刺繍かな。白い光沢のあるズボン。
パッと見上げると、前髪がさらりと顔の横に流れた。
「おいっ!泣いたのか?誰にいじめられた!」
焦った声に、クスノキの枝が揺れる。上半身を起こしたのか、木々で隠れていた男の人の姿が見えた。
「あ、黒……」
顔の作りまではよくわからないけれど、髪の色だけはしっかり見えた。
「しまっ、」
すぐに男の人は木々の間に再び隠れてしまった。
いつもありがとうございます。
しまった。予約投稿してないから、29日にまにあわなかった。日付かわって30日になっちゃったー。連続投稿の野望がついえた……。
だ、だれか、慰めの言葉を……( ;∀;)




