作り話
「あーの、ね?えっと、ほ、ほら。仙皇帝陛下のお姿を見た人いないっていうし……その、もし、仙皇帝陛下に会うようなチャンスがあればね、その……宮廷晩餐会とか何かあれば、ちゃんとするというか……苗子に磨き上げてもらうからね?」
苗子がギギギと私をにらむ。
「その、期待してるから、えっと、苗子の腕に……あは?」
笑ってごまかそうとしたけれど、ダメだった。
「鈴華様、姿勢や立ち振る舞い、髪の艶や肌の色は、そんな付け焼刃じゃどうにもなりませんっ。もしかして鈴華様がご覧になった本には、醜いアヒルみたいな娘がきれいな服を着てちょっと化粧したら白鳥みたいに美しい娘になったみたいな物語があったかもしれませんが」
ああ、あった。
鏡の中を見て「これが、私?」っていうもの。軽く10はあった。
「あれは、作り話ですっ」
びしぃっと、苗子が断言する。
「猫背1つとってもそうです。直そうと意識して過ごさないと直りません。それからほら、これを見てください。どちらが美しいと思いますか?」
苗子がベッドサイドに置いてあったテーブルの上の湯飲みを両手に持った。
左手ではがっつりを握りこむ。右手は、親指とそろえた人差し指中指で持ち、薬指を少し浮かせ、小指は立てて持っている。
ああ、なんか本で読んだなぁ。美しい所作の本。
本で読んだだけじゃなくて、15歳くらいまではマナーの先生が私にもついて教えてくれてたっけ。
年子の妹が黒の宮に行くことが決まり、婚約してからは……自由にさせてもらった。まさか、それから10年たち私がここに来るなんて思ってなかったから……。
「あの、苗子……えっと、た、たぶん覚えてると思うからね。腰かけるときは、こうでしょ?」
ベッドにドカッと腰を下ろしているけれど、マナー講習を思い出して浅く腰かけ直す。足は、斜めにして。
ころりんっ。
「!!!!!」
「リ、鈴華様っ、大丈夫ですかっ」
ころりんとベッドから落ちてしまった。
「あはは、失敗失敗……体が覚えているかと思ったんだけど、ダメね……。少しずつ思い出しながら頑張るわ。猫背も……直すように努力する……」
私のために、怒ってくれる苗子のためにちょっとは頑張ろうと……思います。嫌われたくないしね。せっかく仲良くなれそうなのに。
ここには私一人で来たから、やっぱり敵とか味方とかじゃなくて、仲の良い人の一人二人はほしい。
そうだ。赤の姫と金の姫が来てくれてたけれど、あいさつもそこそこだったからあいさつにいったら友達になれないかな?
「失礼いたしました。つい、興奮してしまい……。あの、それで、先ほど”ない”とおっしゃっていましたが、何がないのですか?」
ああ、そうだった。箪笥全部開けたけど、やっぱりなかった。
いつもありがとうございます。
(´◉◞౪◟◉)




