鈴華スタイル
「鈴華様、まずはお座りください」
苗子の引いたイスに座る。テーブルには、布の上に置かれたパンの山とじゃがいもの山。それぞれ5こくらいあるだろうか。
「昼食にはなんでもいいと指示をしたのはそちらだ。だから、用意した」
「パンと、こちらのジャガイモといいましたか?芋の一種ですわね。ふかしてあるんですか?呂国では芋といえば里芋という芋を食べます。ジャガイモ、本では読んだことがありますが、見たのは初めてです」
興味深くジャガイモを眺めていると、レンジュさんが待ったをかける。
「ちょっと待て待て、怒ってたよな?一国の姫にパンと芋だけなんて馬鹿にしてるのかと怒ったんだよな?」
いや、だから……。
「怒ってませんよ?私、目が悪くて、遠くのものを見ようとすると目を細めて怒っているような顔になるだけで……。あの、ジャガイモもパンも何か分からなくて目を細めてみただけで……ああ、そうだ。前髪戻しておきます」
と、顔を見せるために横に流していた前髪をもとに戻した。
「ぶっ、なんだその醜い髪型っ!」
失礼な。
「怒っていると勘違いされることが多いので、こうしているんです。これなら、遠慮なく目を細めていろいろな物を見ることができるんですっ!」
はーっと、レンジュさんが大きなため息をついた。
それから、さっと私の前髪をかきあげる。
「せっかくのかわいい顔が台無しだ」
か、かわいい?
何言ってるの、レンジュさん。
「苗子、あれ、なんつった、なんかこう、えーっと、なんかあったろ、顔隠すやつ、あれ用意してやれよ」
レンジュさんが身振り手振りで何か苗子さんに伝えた。
「はい。そうですね。……で、いつものくだりの続きをどうぞ」
苗子さんに促されレンジュさんが頭をかいた。
「あー、ったく、やりにくいな。あのな、鈴華様、これ、後宮でのルールを教えるための儀式みたいなもんだ」
と、パンとジャガイモを指さす。
儀式?
パンとジャガイモが?不思議な儀式もあったものだ。
そういえば、何かの物語の本に、そこになじむためには、そこの食べ物を口にしないといけないみたいなのがあった気がする。そうしないと、異物としてその世界から排除されちゃうみたいな。そういう感じの儀式?
「姫の反応はだいたい3つ。ふざけるなと怒って別の物を要求するか、心に感情を押し込めて何でもない顔をするか、いやがらせをされていると泣くかだ。お前の場合は……えーっと……まさか、喜んでは、ないよな?」
嬉しいですよ。
食べたことのない、本でしか読んだことのないジャガイモが目の前にあるんですから。早く食べたいと言いたいところですが、儀式とやらを我慢して終わるのを待っているところです。
読んでくれてありがとう。
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儀式……だそうで。パンとジャガイモの儀式……。
我ながら、何故そうした!いや、なんとなく。




