猫とジャガイモ
あ。奥にテーブルとイスがある……。
謁見するまでの姫の控室ってこと?
本当に部屋と部屋を仕切るだけの布?
「や、やだ、もしかして、私の勘違い?」
かーっと頬が熱くなる。恥ずかしい。
真っ赤になって、おろおろしていると、ぽんぽんと唐突に頭を撫でられる。
「いやいや、言われるまで何も思わなかったが、確かにお前の言う意図もあるのかもしれないよな……今までそんな風に言う人間はいなかったから気が付かなかっただけで」
なでなでと、頭を撫でられていますが、えーっと。
私、26歳の年増ですけど、普通大人の頭撫でます?
「レ、レンジュっ!何をしているのですか。鈴華様に触れるとは……っ」
苗子が、眉を吊り上げてレンジュさんに抗議している。
「あ、わりぃわりぃ。いつもの癖だ」
レンジュさんの手が頭から離れた。
いつもの癖?
「どうにも、こう、うちにいる黒猫を思い出してな」
レンジュさんの言葉に、苗子さんが再び眉を吊り上げる。
「ね、猫?鈴華様を、猫扱いするなんてっ!レンジュっ!」
猫?
「ね、猫?本で読んだことがありますわ!呂国にはいない動物です。こう、体が柔らかくしなやかで、気まぐれな性格をしているけれど、憎めないとてもかわいい動物。愛玩動物の一つとしてとてもかわいがられていると……いう、猫のことですよね?」
じりじりとレンジュさんに近づいていく。
レンジュさんは、なぜか私から後ずさって再び苗子の後ろに隠れた。
「お願いします、その猫に一度でいいので、会わせてください」
「あ、いや、その……たぶん、鈴華様の言っている猫とはちょっと違うかも……」
大きな体をしているのに、忍者のようにすごいことができるのに、なぜか追い詰められた小鹿のようにフルフルと苗子の後ろで震えるレンジュさん。
「ちょっと違ってもいいんです。レンジュさんがいつも撫でているんですよね?かわいいから撫でてるんですよね?かわいい動物を、撫でさせてくださいっ。はぁ、はぁ」
本で読みました。
それ、もふもふって言うんですよね。
もふる。もふれば、もふるとき。
「ちょ、苗子、苗子、怖い、何、この姫」
「ぷっはははははっ。いや、もう、何が怖いんですかっ!失礼ですよ、鈴華様にっ。ふふふふふ。もう、さっさと仕事してください。そのバスケットをテーブルに置いて、鈴華様に昼食を手渡すんでしょう?それから、いつものくだりをするんですよね?さっさと済ませましょう」
いつものくだり?
「あ、ああ。そうだな。うん。こほん。では昼食をどうぞ姫」
テーブルの上に、布を広げ、バスケットから取り出した薄茶色のこぶしほどの大きさの塊をレンジュさんが置く。
ん?なんだアレ?
目を細めてじーっと、正体を確かめようと眺める。
「はっ、呂国の新しい黒い姫も、いくら面白いとはいえ、所詮は姫の端くれと言うことか。さすがに、パンとジャガイモを出されちゃ怒るよな」
え?
怒る?
別に怒ってないですけど?
ご覧いただいありがとうございます。
いや、もふもふは出さねば!出てこないけど。
察しのいい人は「あ、察し」とつぶやいておくれ。
さて、昼ご飯として用意されたのは、パンとジャガイモです。おいおい、炭水化物+炭水化物じゃないか。……しかも、中華風ファンタジーにおいて、パン?ジャガイモ?……いえ。和洋中折衷で、主人公が中華風寄りなので。
そうだ。閃いた!
紫が和風がいいんじゃない?金は洋風だよね。何色がどの国のイメージとか考えると楽しいカモ???
注*とまとは何も考えていない