真相3
「この紫色の実はヨウシュヤマゴボウと言い、有毒植物です」
侍女がハッと口を押えてから、首を振る。
「知らなかった、だって、いつも使われていて何もなかったし、だから、毒だなんて……」
「そう、いつも使われている、これはいつもと同じ。いつもと違ったのは……使い方です」
ちらりとそこに真っ青な顔をして立っていた使用人に視線を向ける。専門家だろうか。目が悪くて表情は見えないけれど顔色というのは見えるものなんだとぼんやりと考える。
「いつもは、どうしていたの?」
「は、はい……実だけを軽くつぶしてその汁を煮て灰汁を取って冷ましてからワインに混ぜていました……」
もう、あとは事実を述べるだけ。ここまで聞けば、私が言わなくたって仙捕吏たちが調べればわかること。言っても言わなくても結果は変わらない……。けど、私の罪を告白するように最後まで伝える。
「ヨウシュヤマゴボウは加熱することで毒が消えると本に書いてありました」
楓が、地下図書館から借りた本を机の上に置き、しおりを挟んだページを開く。
仙捕吏がすぐにそのページに視線を落とした。
「で、でも、生でその実を食べても平気でした」
下働きの一人がおずおずと声をあげた。
「毒は実には少なく、種には多い」
侍女の顔が真っ白になり、倒れてしまった。
「なるほど……。急いで実をつぶそうとして、種を一緒に砕いてしまい強い毒素が出てしまった。それを熱することを知らずにそのままワインに入れたことで、毒入りワインが出来上がったというわけですか」
仙捕吏長の言葉に頷いて見せる。
「強い毒とはいえ、少量では命を落とすようなことはない、だから生で実を一つ二つつまんだ者がいても症状一つ出ないから毒に気が付かない」
仙捕吏長がああとつぶやいた。
「犀衣様があれほど大量に毒入りワインを飲まなければ……」
意識を失った侍女は、仙捕吏補佐たちが連れて行った。どこへ連れて行ったのだろう。
「殺人事件ではなく、不幸な事故だったと……私は、考えます」
私の言葉に、仙捕吏が立ち上がる。
「ありがとうございます。鈴華様。その線で調べ直してみましょう」
深々と頭を下げて仙捕吏が立ち去った。
「私が……わた……しが……紫の宮の庭に行かなければ……私が……」
ぽろぽろと涙が落ちる。
「鈴華様のせいではありません。仰ったではありませんか、不幸な事故だったと」
苗子が、私を抱きしめた。
「でも、でも……あ、あああ、ああああ」
紫の宮の使用人が複雑な顔をしてこちらを見ている。
「ごめんなさい、私が、私が……」
苗子が、さらに私を抱きしめる力を強めた。
「それを言うならば、ふらふらと庭を散策することを許してしまった侍女の私の責任です」
「ちがうよ、苗子は、苗子は悪くな……」
「飲みすぎですと、普段から止めることができなかった私の責任もあります」
「いいえ、ワインの色をよくする方法をきちんと伝えておけば……」
それぞれが、誰かのせいだと責めることはなく、罪を告白していく。
「誰も、悪くない。いいや、悪いのは……命を奪うほどの毒を持つ植物を庭に植えることを許可した仙皇帝だ」
レンジュがさめざめと泣く皆の前で低い声を出した。
「すまなかった。結果として皆の心を苦しめることとなった」
苗子の腕からのがれて、レンジュの下げた頭を抱える。
「レンジュは……仙皇帝様は悪くないよ、何もかも知っているわけないんだもの……だから、私、私が、本をもっといっぱい読んで毒のある植物には気を付けるように立札を立てるようにするよ、必要な手順を書いたマニュアルを作って提出するようにお願いするし……私、仙皇帝宮に行ったら、いっぱい役に立てるように頑張るから……」
レンジュが頭を抱えている私の背に腕を回した。
「頼りになる仙皇帝妃……俺の嫁だ」
レンジュの言葉に、皆の涙が一斉に止まる。
「「「「仙皇帝様?」」」
そうか、私が仙皇帝様と婚約したという情報はもうみんな知ってたんだっけ。それで私を嫁と言えば、レンジュの正体もばれるよね。でも。
「違うからね? 婚約者っていうだけで、嫁じゃないよ?」
って、否定の声は、皆の大騒ぎにかき消されるた。
あれ、マオが戻ってくるとレンジュは仙皇帝に復帰することもなくなるよね? そうなると私はどういう立場になるんだろう?