真相2
私が帰った後も、当日の再現は続く。あの後も、侍女は色の美しいワインを何本も持ってきては犀衣様のグラスに注ぐ。
浴びるようにお酒を飲む犀衣様。
最終的に十三本の瓶を空にしたところで再現が終わった。
仙捕吏が首を傾げた。
「これでいったい何がわかるのですか? 聞き取り調査で済んでいる通り、何も問題はなかったと思いますが」
自分の罪を告白する時間だ。そして、人の罪を暴く時間。故意ではない、知らないままならば苦しむこともなかった。
「東屋の椅子に、改めて腰かける。仙捕吏長にも座ってもらった。仙捕吏の後ろにはレンジュが。私の後ろには苗子と楓が立っている。
「あの日、紫の宮では”いつもと違うこと”が二つありました」
もし、いつもと同じであれば犀衣様は死ぬことはなかった。
「一つは、私が紫の宮の庭を訪れたこと」
私が来なければ……。私が……ぎゅっと胸が締め付けられる。私のせいで犀衣様が……。私が……。泣くな。泣くな、泣くなっ。
「はい、それはこちらも早々に把握し、失礼だとは思いましたが参考人として話を聞かせていただいたので分かっています。疑いがないことも確認済です」
そう、私は殺してない。手を下してはいない。だけど……。
「それから”いつもと違うこと”の二つ目は、酒の専門家が休みだったこと。いつも酒の専門家がしていたワインの色をよくすることを……いつもとは違う侍女が行ったこと……」
侍女がハッとする。
「私は、確かにいつもしてませんでしたが何度も見ていました。間違えた実を使ったりしてません。同じ実をとってきて、汁を絞って入れました。毒を混入させたりなどしてません」
仙捕吏長に尋ねる。
「どのように作業していたのか、もう少し詳しく……見たままを教えていただけますか?」
仙捕吏がうなづいた。
「庭の西側に生えている植物から、房になっている紫色の実を取ってきていました」
視線を楓に向けると、楓が取ってきた実をテーブルの上に出した。
「この実で間違いないですか?」
うんと仙捕吏長がうなづく。
「私も楓も、その植物を確認しました。いくつも房がちぎられた跡があったので、いつも使っていた同じ植物なのでしょう」
ほっと侍女が息を吐き出す。
仙捕吏長が続けた。
「色が移りやすく取れにくいということで、器に房ごと入れて、先が紫色に染まった棒でつぶしていました。いつも使っている道具なのでしょう」
「どんな動きでしたか?」
仙捕吏が手近にあった器と筆を使ってその時の様子を再現してくれた。
「早くワインを持って行くためか、非常に急いで力強くつぶしていました」
仙捕吏の答えに、ぐっと奥歯をかみしめる。
侍女のために違えばいいと思っていた。マオのために違わなければいいと思っていた。
どちらに傾いたとしても……。苦しみから逃れられるわけではないというのに。それでも、想像通りの答えに言葉に詰まる。
「そのあとは?」
「汁を、ワインと混ぜていました。すると、ワインの色が驚くほど綺麗な色になりました。他に何かを混ぜるようなことはしていません」
泣くな。真実を知った侍女が絶望する姿を想像して、逃げ出したくて仕方がない。
「鈴華様、私が代わりに……」
すべてを伝えてある苗子が気を使って私に耳打ちする。
いえ。これは私の責任。あの時、紫の宮の庭に足を運んでしまった私の……。
ふぅと小さく息を吐き出してから、口を開く。声が震えそうになるのをゆっくり話すことで抑える。いや、抑えきれなくて震えた声が出る。