真相
楓が本を開いて嬉しそうな顔で私に向けた。
楓がトントンと指さしている場所には確かに毒の文字。
すぐに楓の手から本を取って読む。
「み……見つけた……あとは、この通りだったのか確かめれば……」
ごくりと唾を飲み込む。
ジュジュさんに本を貸してもらい、すぐに地下図書館から出る。たくさんの本に囲まれる時間はとても幸せなはずなのに、今は本に囲まれるよりもっと大事な、すべきことがある。
持ち帰った本を部屋で読む。苗子はいつものように夜中まで本を読んでいることに対して注意したりしないで見守ってくれていた。そして、本を読んでいる間に、指先が震える。
この本に書いてあるこれが原因だとしたら……。
胸が、ずきずきと痛む。
もし、私があの時……紫の宮の庭に足を踏み入れなければ、犀衣様が死ぬことはなかったかもしれない。
その事実と向き合うことが苦しくて目をそらしたい。私のせいじゃない……。
私のせいじゃないけど……私が違う行動をとれば防げたのかもしれない。やっぱり私のせいかも……と、ぐるぐると考えが回り苦しい。けど、もっと辛いのは、きっと……。
私以上に苦しむであろう人のことを思ってさらに胸が痛くなる。
知らないままなら苦しむこともないのに……。事実を突きつけて私が苦しめてしまう。
でも……明らかにしなければならない。私も一緒に苦しみを背負って生きていく……。
夜が明け、楓と紫の宮の庭でそれを見つけたときには両目から涙が落ちてた。
「鈴華様、ちぎられたあとがたくさんあります。想像通りいつも使われていたのだと思います」
「大丈夫ですか? 鈴華様」
苗子が足に力が入らなくなりふらついた私を支えてくれる。
自分の罪を……伝えなければならない。
「仙捕吏長に来てもらいましょう……」
まだ日が昇ったばかりの早朝だとういうのに、仙捕吏長はすぐに駆け付けてくれた。二人の補佐官を連れている。
紫の宮の使用人全員と、私と楓と苗子、そしてレンジュの姿もある。レンジュは仙捕吏の格好をしてまぎれていた。
「このような時間に集まっていただきありがとうございます。犀衣様が亡くなった日の事実を少しでも早くお伝えしたくて」
誰も、眠そうな顔をしていない。不満そうな顔も。
それだけ皆、犀衣様が亡くなったことに心を痛め、真実が知りたいと思っているのだろう。
「真実とは? 犯人が分かったのですか?」
仙捕吏が早口で尋ねる。
「まずは、当日のことを再現したいと思います。同じように準備していただけますか? ……東屋でお酒を飲むところから。犀衣様の役は、苗子にお願いしました」
苗子と視線を合わせると苗子が頷いた。
東屋に向かうと、当日のことを使用人たちが思い出し、お互いに確認しあいながら動き出す。
「犀衣様はこちらの席に座っておいででした」
侍女がワインを。料理人がつまみを運んでくる。
グラスに侍女がワインをなみなみと注ぐ。流石に、苗子はお酒を飲むわけにはいかないので、飲んだことにして大きな器にワインを移していく。
おつまみも食べたことにして、別の器に置いていく。
そうして、ワインの瓶を三本ほど空にしたところで、私と楓の出番が来た。
「あら? お客様?」
記憶を頼りに、苗子には犀衣様の行動を模すよう伝えてある。
手招きされ、椅子に座る。
あの日の犀衣様の姿を思い出し、泣きそうになるのをぐっとこらえて再現していく。
「色が悪いわね、いつものを出して」
あの日と同じように言われた侍女があの日の自分の行動を思い出してすぐに別のワインを用意しようと動く。
「待って、言葉が抜けているわ、ここであなたは言ったわよね。いつもの酒の専門家が休みだと」
はっと侍女が思い出したのか、頷く。
「は、はい。確かに。姫様のご指示にすぐに従わずに言葉を返しました。ですが、あの、反意があったわけではなく……」
慌てて侍女が再現しなかったことを言い訳する。
「ええ、分かっているわ。続けて。ここからは、仙捕吏長、彼女の行動を追ってちょうだい」
しばらくして、侍女があの日のように色の美しいワインを持ってきた。