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鈴の音

「毒見が済んでいたなら、毒殺じゃないのでは?」

 仙捕吏が首を横に振る。説明を始めたのは苗子だ。

「毒見をすれば絶対に安全というわけではありません。後宮に入ってくるものはまずすべて厳しく検査されています。それでもお腹を壊したりすることは時々起こります。扱い方によっては体に毒となるのです」

 病気はしないけどお腹は壊すのか……。どういうことだろうか。体の内部に入れたもの、外的要因で体に不調をきたすことはあるってこと? 

「また、毒見をした後に毒を入れられれば、毒見は意味を成しません」

「え? それって……」

 毒見が済んだワインを私は勧められた。その時にこっそり毒を入れたと疑われているの?

「やっぱり、私が毒を入れたと思われてる……?」

 参考人として話を聞かれているだけ? 容疑者になっている?

「鈴華様は怪しい動きをしていないと証言が取れています。……その時の様子を事細かに覚えている者がいました。鈴華様の服装から、テーブルに置かれたものの配置、他の者の証言との食い違いはなく記憶違いということはないでしょう」

 ほっと息を吐き出す。

 ううん、違う、そうじゃない。私が犯人だと言う疑いがはれたって、何にも解決していない。

 マオ……。仙牢は辛いところ……?

 仙山の汚れたら世の中が乱れてしまうって本当?

 レンジュ……弟のマオのことで心が苦しいでしょう。

 ああ、……私、助けたいと思っているのに、何をしたらいいのか分からない。何もできない……。

 涙が落ちると、苗子が抱きしめてくれた。

 椅子に腰かけ、温かいお茶を飲み、仙捕吏が部屋を調べ終わったところで、意識を失うように眠った。


 目が覚めると、すでに日は高く昇っている。

「お目覚めですか、鈴華様」

 苗子がすぐに濡らしたタオルを私の目に優しく当ててくれた。泣いたので腫れているのだろう。

 軽い昼食を食べると、苗子が静かに口を開く。

「鈴華様の疑いははれました。後宮が明後日閉鎖されるに伴って、鈴華様も国にお戻りいただけることになりました」

 ぼんやりと苗子の言葉を聞く。

 後宮が閉鎖される? 国に戻れる? それは追い出されるってことだよね……。

「お荷物の準備をさせていただきます」

 苗子がまだ一度も袖を通してない服を丁寧に畳みだした。

 ふらふらと力の入らない足取りで庭に出て、大きなクスノキを見上げる。

 そういえば、初めてマオとあった時も、私は泣いた後だったっけ。

 泣きはらした目を見て「誰にいじめられた」と心配して姿を見せてくれた。

 まぁ、実際はいじめられたのではなく本が読めなくて泣いていたんだけど。

 マオの顔を思い出すと、また涙が落ちる。

 涙が落ちないように上を見る。

 木の葉の間から光が漏れ葉っぱを明るく照らし、そこだけ白っぽく浮かび上がる。

 木の枝から見えた白いブーツを思い出す。

 違う。初めに顔を見たのは泣いた後だったけど、その前に木の上にいるマオと会話をしたんだ。

 初めて黒の宮の庭を歩いたときに、いろいろな木が生えていることに感動して。クスノキの話をした。

 マオはクスノキの話を聞いて私に「その知識は、君の何に役に立っている?」と言ったんだ。

 私は、その時、役に立てたくて本を読んでいるのではないと……答えたのだったかしら? 

「そうだ、本を読んで得た知識が役に立つと嬉しいと……そう思ったんだ……役に立って……」

 袖口で、グイっと目元を乱暴に拭う。それから、裾が乱れるのも気にせずに、部屋に戻る。

 すぐに机の引き出しを開いた。苗子はまだ机周りの物の荷造りはしていなかったみたいで、すべてがそのままになっていた。

 レンジュから貰った大きな鈴が、そのまま机の引き出しに入っている。

「鈴華様、どうなさったのですか?」

 最後に一度だけ使えると言われた鈴だ。

 仙山を追い出される前に……。

 鈴を思いきり振ると、リィーンと、涼やかな音が立った。思っていたようなリンリンリンという音ではない。何か仙術でもかかっている特別な鈴なのかもしれない。

「私、仙皇帝宮に行くわ」

 手を止めて私の元に来た苗子に宣言する。

「え?」

 すぐに、レンジュが姿を現した。


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