毒
レンジュが立ち去ってから、ただぼんやりと立ち尽くしていた。
マオが……牢に……。
3日したら私は黒の宮を立ち去らないといけない……。もう、二度と、マオにもレンジュにも苗子にも……会えなくなってしまの?
ううん、私のことなんてどうだっていい。
マオは?どうなってしまうの?本当に仙牢から出られないの?
弟が仙牢に入れられてしまったレンジュはの心は?
この後宮でいったい誰が誰を殺すと言うの?
なぜ、その罪をマオが追わなければいけないの?
絶対違う。
ぼんやりとしていたら、苗子に声をかけられた。
「仙捕吏が事件の調査をしに……犯人を捜しに来ました」
仙捕吏が?
ハッと我に返る。
話を聞かなくちゃ。そしてマオは何も悪くないと牢から出してもらわないと。
本来後宮に男の人は立ち入れないはずなのに、仙捕吏は部屋まで入ってきた。
3名。私と苗子が身を寄せ合っていると、代表して1名が話かけてきた。
「何があったのか……聞かなくちゃ」
ぐっと腹に力を入れて前を向く。
仙捕吏は片眼鏡の位置を手で直すと、感情が見えない声で淡々と尋ねる。
「今日、紫の宮に行きましたね? 何のために?」
「挨拶に……少し話しをしただけで、特に何も」
仙捕吏の口調は硬い。私は疑われているのだろうか?
「それは、本当ですか?」
本当だと答えるより先に、苗子が口を開いた。
「他の姫様とも一緒でした。確認すれば事実だとすぐに分かります」
仙捕吏がふぅと息を吐き出す。そして、口調が自然にもどった。
「紫の宮の侍女であるカリナの証言と相違はないようですね」
指先が冷たくなる。紫の宮の侍女の証言って……まさか。
「誰が……殺された……いえ、亡くなったの?」
仙捕吏が一拍置いてから口を開いた。
「犀衣様です」
「え? 藤国の姫……犀衣様が? 嘘……だって、私、昼に顔を合わせたばかりで……」
がくがくと足も震えて床に膝をつく。
苗子私の体を支え、椅子へ座らせてくれた。
足の震えは止まらず、寒くもないのに、震えは全身に広がり両手で体を抱きしめる。
「お酒を飲みながら気さくに話をしてくださって……今度、呂国のお酒とおつまみをもって行くと約束して……」
自慢げにワインのグラスを掲げる姿や、ぐびぐびと水のようにワインを飲む姿を思い出す。
ここは天国よと幸せそうな顔をしていた犀衣様が……亡くなった?
「こ、殺されたって、本当なん……ですか? 誰かに刺されたとか?」
仙捕吏は首を横に振った。
「外傷はなく、毒殺されたようです」
「毒殺? それは本当なの? お酒の飲みすぎで体を悪くしてとか……本に、急性アルコール中毒というお酒が原因で亡くなることもあると読んだことが……」
殺人でなければ、事故であればマオは仙牢に入らなくてもいいんだよね?
「いいえ、ここでは、どれだけ不摂生な生活をしようと体調を崩すことはありませんし、犀衣様はお酒に強いと証言を得ています」
そうだ。レンジュも言っていた。病気にはならないと。それに犀衣様は確かにアルコール中毒を起すようには思えない。
「でも、普段と違うお酒を飲んだとか。本にはいろいろなお酒を混ぜると悪酔いするということも書いてあったし……」
仙捕吏が再び首を横に振る。
「すでに、普段通りの飲酒をしていたと確認しております。口にしたものは、どれも毒見が済んでいるもの。普段から食べている物ばかりだったと」
間が空いて申し訳ありませんでした。最後まで駆け抜けます。