仙牢
支える……。ここで働いているすべての人たちが力を合わせて仙皇帝宮を支えて行かなければならないのか。
レンジュの右手は強く握りしめられている。きっと爪が手の平に食い込んでいるだろう。白く血の気を失っている。
……弟を助けたいのに、助けるために動くこともできないんだ。
レンジュだって、マオが殺人犯だんて絶対に思ってない。
レンジュが調べられないんなら、私が調べる。私が見つける。
マオの無実を、殺人なんてなかったっていう証拠を、私が見つけてみせる。
「ごめん。これをならせばいつでも飛んでくるといったが、それもできそうにない」
レンジュが、ぐっと握りしめていた右手を開いて、私の手を取った。
そしてもう一方の手に持っていた鈴を私の手にのせ、握らせた。
「最後に……一度だけ。どうしても、俺の力が必要だったら呼んでくれ……」
「一度だけ?」
「ああ、その時に、返事を聞かせてほしい」
返事?
レンジュが意味が分からず首をかしげる私の目を切なげに見た。
「俺の退屈をこの先ずっとまぎれさせてくれるか……それとも俺にまた、退屈な日々を与えるか……」
退屈を紛らわす?
楽しそうにゲラゲラと笑うレンジュの姿を思い出す。お前おもしろいなと何度言われたことか。
それは、つまり、ずっと笑わせるようなことをしでかせということ?
……それは、かまわない。マオを失って沈んだ気が、私に紛らわせることができるなら……。
レンジュにはまた前みたいに笑って欲しいから。
レンジュの顔が近づき、そっと唇をふさがれた。
あ!
翠国の挨拶……?
レンジュの唇は冷たいなぁ。そりゃ、色々ショックを受けているから……。
……呂国ではこれは、キスって言うんだよ。挨拶じゃないんだよ……。だから、胸の中がグルグルとなるから、なんだか恥ずかしくて、頬っぺたも赤くなるから……
やめてほしいと、言えなかった。
だって、これは別れの挨拶?
レンジュ、涙を流してるよ……。
思わず悲しくて寂しくて腕を伸ばしてレンジュの背中に伸ばして抱きしめた。
グラリと再び地面が揺れる。
レンジュが弾かれるように私から離れた。
「仙牢の扉がしまった……マオ……」
ぎりりとレンジュが奥歯を噛みしめた。
「じゃぁな。頼んだぞ苗子」
レンジュがいつものように天井裏へと消えて行った。
「頼まれましたよ。……ふぅ。まったく、こんなことになってから動くとはねぇ」
苗子が苦虫をかみつぶしたような顔をしてレンジュを見送った。
「さぁ、鈴華様、今日は寝てください。明日から下山の準備をいたしましょう」
「げ、下山?なんで?」
「仙皇帝の座が空座の間は後宮を閉じられます」
え?そんな……。
「ここにいられないの?マオが無実だって、調べたいのに……いつまでに出て行かなければならないの?」
「明日は、一通り姫様たちも働いている者も取り調べを受けるでしょう。その後、後宮閉鎖の連絡が各国へなされ、3日ほど帰郷準備をして出てもらうことになるかと」
3日しかない。
ここにいられるのは3日……。その間にマオの無実を証明できる?
私にマオを助けられる?
しばらく間が空きます。ごめんね。マオ救出編少しお待ちください。