変異
レンジュは、小さく首を横にふり、消え入りそうな声を出した。
「今のは地震じゃない……。仙牢の開いた合図だ」
仙牢?
「仙皇帝が資格を失った」
どういうことか分からなくて説明を求めて苗子の顔を見る。
「仙皇帝の力に満たされたこの後宮で、人が殺された……悪意や憎悪で仙山を汚されるようなことがあれば、それは仙皇帝の責任。資格を失います」
こ……。
「待って、殺されたって、どういうこと?」
なんで、苗子が知ってるの?だって、寝間着っていうことは揺れたときは部屋にいたんでしょう?
「仙山では、人は病になりません。仙皇帝宮では人は年すら取りません。老いることはないのです。後宮で過ごせば年は取りますが、体の機能を損なうことはありません。健康な人はずっと健康なのです。もし、命を落とすとしたら……誰かに害されたとしか考えられないのです」
え?本当なの?
苗子の言ったことの真偽が知りたくて、レンジュの顔を見る。
レンジュの顔は青いままだ。
「マオが……仙牢に入れられた。一切の光を通さない闇の牢。年を取ることも寝ることも狂うことすら許されない牢の中で1000年の時を生きなければならない……」
レンジュが唇を噛む。
手に持っていたハンカチの上から、コロリとチョコレートが落ちて床を鳴らす。
「うそ、マオが?」
何故、マオが牢屋に入れられないといけないの?
仙皇帝の責任でしょう?マオは関係ないじゃない。
ううん、何か関係あるの?まさか、その殺人の犯人?
「誰が、誰を、殺したの?」
マオが人を殺した?まさか!ありえない!
「分からない……」
レンジュだって、マオが殺したなんて思ってないんだよね?
「ねぇ、マオが無実だって分かったら、いえ、そもそも殺人じゃなくて、何らかの事故で亡くなっただけだったと証明できたら、そうしたら、牢から出してもらえるの?」
レンジュが辛そうな瞳に暗い色を宿したまま私を見下ろす。
「そうだな。事故で亡くなっただけなら……」
絶対、マオは犯人じゃない。私は信じてる。
「レンジュ、だったら、調べて。誰がどうやって亡くなったか。犯人だと疑った理由、それから」
レンジュが首を横にふり、そして机の引き出しを開けて鈴を取り出した。
レンジュを呼び出すことができると言う大きな鈴だ。
「鈴華……。もっとお前といたかった。だけど、もうここに来るのは無理そうだ。仙皇帝を失えば、仙山が、ひいてはすべての国に天災が降りかかる。新しく仙皇帝が立つまで、支えなければならない」
レンジュが仙皇帝宮のある方へと視線を向ける。