天井裏の人
驚いて見上げると、天井の一部に穴がぽかっと開いてしゅたんと人が下りてきた。
え?
「お、男の人?」
ずいぶん大柄の人物。声も低いし、体格も身長が高いだけじゃなくて肉厚……ああ、鍛え上げられた筋肉に包まれていそうだ。
上半身は袖のない着物。腕はとにかく太い。下半身はふわりとひざ下まで少し広がったズボン。上下とも黒。
「後宮に……忍び込んだ?」
顔はくどい作り。呂国のような割と平面的であっさりした顔付きではない。髪の色が薄い茶色なので、何国出身なのか分からないけれど、彫の深さからすれば、金か銀か。
「うはははは、忍び込んだと、疑問形か。悲鳴は上げないのか?」
ああ、そうか。こういう時には「きゃーっ」と悲鳴を上げるのか……。
いや、でも……。本で読んだことあるよね。
「えーっと、私の護衛?影っていうのかしら?それともスパイ?」
男の人の薄茶色の瞳が私をじーっと見ている……ような気がする。2mも距離が離れるとぼんやりとしてしまうけど、まっすぐこちらに体も顔も向いてるし、視線だけどっか別を向いていることはないと思う。
「……ほら、苗子も悲鳴を上げてないから、味方ですよね?えーっと、諜報……隠密?」
なんだっけ。黒い服で、天井裏から出てくる人。
もっとぴったりの呼び名があったような気がするんだけれどなぁ。
「残念ながら全部ハズレだ」
男の人が両手を広げて首を横に振った。
おお、大きなリアクションしてもらえると助かる。表情が見えなくても感情が分かりやすいから。
「あ!忍者、忍者じゃないですか?」
唐突に思い出した。
びしっと指をさすと、男の人はなんの反応もしない。
あれ?
「忍者ってなんだ?」
「知らないんですか?あなたのように、黒い上下の服に身を包んで、天井裏や床下に忍び込んで情報を得たり誰かの護衛をしたり、それから屋根の上を闇に乗じて素早く駆けたり、えーっと、手裏剣とか投げて敵を倒したり。そうだ、すいとんの術とか、何か不思議な術で相手をかく乱できたり」
男の人が笑う。
「まぁ、確かに全部やれないことはないな」
「え?すごいっ!」
忍者って伝説の存在じゃなかったんだ!
「あはははははっ、いやいや、面白いな。お前」
と、腹を抱えて笑う男の斜め後ろに苗子が立つ。
「お前ではありません。鈴華様です」
「おーそうそう。鈴華様な。初めまして。俺は、そうだな、うん、忍者とでも呼んでくれ。残念ながら、お前……鈴華様の味方じゃない。ただし、敵でもない」
味方でもなくて敵でもない。
「なんだか、嫌ですね……」
ふと口をついて出た言葉に、忍者さん……が頭をかいた。うーん、忍者と呼ぶのはややこしいですね。カタカナ読みのレンジュでいいでしょうか。
「嫌でも、悪いが味方にはなれねぇぞ。俺ら宦官はあくまでも後宮と王宮の連絡役でしかない」
「いえ、味方じゃないのが嫌なんじゃなくて、敵とか味方とかそういう風にしか考えられない人間関係は嫌だなと……あっ!」
突然大声を出した私に、レンジュさんと苗子さんが少し後ずさった。
ご覧いただきありがとうございます。
誰だ、誰だ、誰だーっ!(はい、音楽が流れた人は平成、続きをうたった人は昭和)
さて、鈴華さんは、また斜め上の発言を……。
なんちゃって中華です。和も交じってますよー。
なので、忍者。中華風の読み方をすると「レンジュ」てことはれごにんじゃごーとかれごれんじゅごー……って、意味の分からないことを頭の中に思い浮かべ、ああ、めちゃどうでもいい話だと……。
あ、どうでもいい話大好きです。
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ブクマ、評価に励まされますありがとうございます。感謝です。
レビュー……は、ないので、えーっと、つくと小躍りするんだけど、大踊りしたほうがいいかな……。付いたら考えよう。