地震
はい。ちゃんと我慢できてるよ。
寝る前に、机の上に3粒のチョコレートを布に包んで置く。
はー。なんだか楽しい一日だった。幸せだったなぁ。そういえば、今日は本を読んでいない?もう、図書室には出入り禁止の時間なんだよね。
と、今日会ったことを思い出しながらチョコレートの味を思い出しながら、布のふくらみを見つめる。
この中にチョコレート。私の分と……。ごくりと唾を飲み込む。
だめだめ。ちゃんと我慢我慢。
に、匂いを嗅ぐくらいなら……。
と、手を伸ばしたところ、グラグラと足元が揺れた。
「え?何?」
グラグラと揺れ続ける。私がおかしいんじゃない。カタカタと机も鳴っている。地面が揺れているんだ。
「じ、地震?」
本で読んだことがある。大地が揺れるのだ。呂国では経験したことがなかったけれど、本当に地面が揺れることがあるんだ。
「だ、大丈夫ですか、鈴華様!」
揺れが収まると、苗子が、寝間着姿のまま慌てて飛び込んできた。
必死の形相。私を心配して着の身着のまま部屋に来てくれたことにほんわりと胸の奥が温かくなる。
「ええ、大丈夫。今の地震っていうのよね?本で読んだことがあるわ。えーっと、そう、地震が起きたら机の下にもぐって落下物に備えなさいと書いてあったわ。私ったら、目の前に机があるのに、そこまで頭が回らなかった」
苗子が、震える手を私に伸ばしてくる。
あら?苗子は地震が怖かったのかな?
「事件が起きたみたいです……。鈴華様……後宮はしばらく閉鎖されるでしょう」
は?
後宮が閉鎖?
地震があると建物が崩れるというのも本に書いてあった。後宮の建物の点検でもするのかな?
いえ、でも、仙人の住まう仙山って、不思議な力が働いてるんじゃない?この後宮も。
中庭が国ごとに全く違う環境になっているのもそうだし。
……あれ?不思議な力が働いているのに、地震は起きるの?
ガタンと天井が鳴り、パカリと板が外れてレンジュが飛び降りてきた。
顔色が悪い。
「レンジュ、ビックリしたわね。あ、そうだ。これ、気持ちが落ち着く効果もあるとか……」
机の上のハンカチの包みを手に取る。
開いて、中の丸いチョコレートを3粒見せる。
「美味しいのよ。レンジュに一つと、マオにも」
と、差し出す。べ、別に、目の前にあると、自分で全部食べちゃいそうだから、すぐにでも渡したいと思ったからじゃないよ。
本当に、なんか顔色が悪いから、地震が起きて怖いって思ってたらさ、怖い時って美味しい物食べるとちょっと収まるから。
え?食いしん坊だけの落ち着き方だって?そんなはずないよね。何かあったら、まず食べようって言うじゃん。
あ、そうそう、腹が減っては戦はできぬとか、いや、ちょっと意味が違うか。




