泣きそう
「くふふ。頼んだわよ。……とはいえ、姫らしくなった鈴華を見ることはないかもしれないわね」
「え?それって、期待されてないってこと?」
「怖いところではないと知ったから……。妹と交代しようと思うのよ。……妹に、辛い思いをさせたくないと、6年も居続けたけれど……」
スカーレット様の言葉に、無意識に涙がこぼれた。
「せっかく友達になれたのに……いなくなっちゃうの?」
「すぐにって言うわけではありませんわ。あと1年ほどね。25になる前には交代すると父に手紙を書きます。その間に見合い相手を見繕ってもらって、妹の準備も整えておいてもらわないといけませんもの」
1年……。
引き留めたい。でも、それはできない。
だって、スカーレット様の話からすると、後宮で妹がいじめられないように、自分ができるだけ長く後宮にとどまるようにしてたんだよね。
本当なら、結婚適齢期……行き遅れなんて言われないうちに後宮を去りたかったかもしれないのに。
あれ?でも……。
「他の姫のように、里帰りと称して後宮にいないこともできたんじゃ?」
スカーレット様が首を傾げた。
「あら、敵前逃亡が許されるような甘い国ではありませんのよ?」
うひゃ。朱国の土壌忘れてた。
「まぁ、私個人としては、国に顔を出すたびに、家族が泣くからあまり顔を出したくなかったのですけれどね。辛い思いをさせてすまない、私のためにごめんなさいお姉さまみたいな感じで……」
あら、優しい家族。うん、だからこそ、妹を守りたいっていう思いが育ったんでしょうね。
「でも、ちょっと帰ってみようと思うの」
「え?あと1年交代まで後宮で過ごすわけじゃないの?」
また、泣きそう。
「ふふ。後宮で友達ができて、楽しく過ごせるようになったって、だから大丈夫よって、交代する妹を安心させに行ってくるだけよ」
「スカーレットぉぉぉっ」
両手を広げて、再びスカーレット様に抱き着こうとして、苗子に首根っこをつかまれる。
うぎゅっ。
「私がいなくなったあと、妹のこと頼んでも大丈夫?」
「も、もちろん、ちゃんとそれまでに、えーっと……苗子に、特訓してもらうんで……」
と、ちらりと苗子の顔を見ると、まさに、笑顔の裏に謀略ありみたいな笑顔を私に向けた。
うひー。後に引けないけど、引きたい。ほ、本をよむ時間くらいはあるよね、ねぇ、あるよね?と、目で訴えかけるも、苗子の笑顔が崩れることはなかった。
「ふふふっ。楽しみね。じゃぁ、私は早速里帰りの申請の手紙を書いて、荷造りするわ。2週間くらい行ってくるつもり。あ、お土産、チョコレートでいいかしら?」