ともだちと、かいて、ともだちと読む。
廊下を二人で歩きながら、いや、もちろん前にも後ろにも周りにはお互いの侍女がいるんだけれども。
「嫌がらせじゃ……なかったのかもしれませんわ……」
ぽつりとスカーレット様がつぶやき、胸元から極秘本を取り出した。
うほ、それ、朱国の姫に代々伝わるやつぅ!
「……これを読んだせいで、嫌がらせが当たり前だと思い込み過ぎていたのかもしれません。後宮は、姫たちの戦場であり、気を許したら裏切られる。隙を見せたら付け込まれる。油断すれば後宮にいられなくなる。耐えても終わりはない。生き抜くには攻めるべし……」
うっわぁ。なんかすごい言葉がたくさん載ってるのねぇ。
「笑顔の裏には謀略あり」
スカーレット様が、ちょいと開いた本をぱたんと閉じて胸元に戻した。
立ち止まったスカーレット様が、にっこりと微笑んで私の方に体を向ける。
「笑顔の裏には謀略……」
綺麗な笑顔のまま、私の顔にかかった布を持ち上げるスカーレット様。
「あ、あの……スカーレット様?」
私、何か気に障ることしちゃったかな?
「ふふっ、ふふふっ、怯えてるの?大丈夫よ。謀略なんてめんどくさいことあなたに対してしたりしないわ。すべての感情は笑顔で隠すべしと、それが姫同士の付き合いの基本って書いてあったのに。あなたときたら、ふふふ。ふふ……」
作ったような綺麗な笑顔から、自然な笑い顔に変わった。
「ありがとう……」
「え?」
「ずっと、後宮は恐ろしいところだと思い込んでいました。だから……ねぇ、私、6年も後宮にいるのはご存知かしら?」
はい?なんか、話題がぴょーんと飛んだ。
「あ、はい。18歳から6年で、24歳で、私と年齢が近くて嬉しいです」
「ふふ、ふふ、本当ならとっくに交代しないといけない年齢……嬉しいって言うのはあなたくらいよ、鈴華」
また笑われた。
あ、まって。
「あの、今、鈴華って、鈴華って!」
「ああ、ごめんなさい。つい。なれなれしかったかしら?」
「いえ、あの、私も、私もスカーレットって呼んでもいい?ね、友達、友達っぽい」
「ぽいじゃなくて、私たち友達でしょう?」
とスカーレット様の真っ赤な唇が動く。
「だ、大好きっ!」
思わず、スカーレット様に抱き着いてぎゅーっとしてしまった。
だって、だって、嬉しいっ!
「ちょ、ちょっと、鈴華っ、苗子、いったい、これは本当に姫ですの?姫のふるまいですの?」
スカーレット様が手をバタバタとさせて苗子に話かけている。
「はい。まごうことなき呂国の姫です。申し訳ありません。今後しっかり教育をさせていただきます」
うっ、苗子に首根っこつかまれた。