クサギ
「ふぅー。でも、キビ団子と、今飲んでいるワインはあまり合わないのよねぇ」
ごくごくと喉を鳴らしながら犀衣様がつぶやく。
いえ、大丈夫です。私はワインを口にしていないので、キビ団子を!そう、お供しますから!仙皇帝宮へ行くのであれば、お供をしますから!
私にキビ団子を!……あ、うん。キビ団子もらえなくても仙皇帝宮へついてこいって言われたらしっぽふってついていくけどもさ。
「で、何の用で来たんだっけ?ごめんねぇ、酒入るとさぁ、さっき聞いたことも忘れちゃって」
いえ、何の用で来たかといえば、嫌がらせの犯人探しで、そのことについては言っていないですよ。
「んー、ちゃんと事前に連絡くれれば、飲まずに待ってるから、えーっと、キビ団子となんか用意させるからさ」
キビ団子!わお!
本で読んだだけで食べられないと思っていたものが食べられるなんてすごい、どうしよう、ドキドキしてきました。
犀衣様が、侍女にふいふいっと手を振って見せる。
「はい。ちゃんと記録しておきますので。呂国の鈴華様、朱国のスカーレット様がいらっしゃる時にはキビ団子を準備する……と」
お酒を飲むと忘れっぽくなる対策として、侍女にメモを取らせるようにしているのか。酒を飲んでも飲まれないように、その辺はしっかり対策していると言えばいいのかな?
「犀衣様、本日は、挨拶に伺っただけですので、突然の訪問失礼いたしました。また、日を改めて、ワインに合う呂国のつまみを用意して伺おうと思います」
ワイン関係の本あったかな。どういうつまみが合うんだろう。あ、料理人に聞けば分かるかな?
呂国のお酒はほぼ無色透明。
黒酒というものもあるんだけど、神事に使うときの特別の酒だ。
酒に、クサギを焼いた灰を混ぜて黒くするんだけど。私はお酒禁止令が出ているので、味は分からないけれど、どうも……美味しいわけではないようだ。
まぁ、そうだよね。おいしければ神事以外にも黒酒にして飲むよね。神事にしか使わないので察し……。
クサギは低木だから木材にはならないけれど、薬になるし貴重な青い染料になる役立つ木だし虫はつかなくて育てやすいから庭木にその辺に生えてることも多い。黒酒美味しければ、庭のクサギ燃やして作るよね。うん、作らないので……まずい決定。さすがに呂国のお酒ですといって手土産にするわけにはいかないよねぇ。……嫌がらせと思われたら目も当てられない。
「そうしていただける?」
犀衣様が、グラスのワインを空にして、侍女にお代わりを要求する。
すごいペースでお酒を飲む人だなぁ。ワインって、それほどアルコール度数強くないのかな?それとも、犀衣様がお酒に強い?
スカーレット様とちゃんとした退室の礼を取ってから紫の宮を後にする。
いつもありがとうございます。
もう、察しのいい人はお分かりですね。
お酒を好きなだけ飲める!だから、後宮にいるのさ!ってタイプの女性でしたね。藤国の姫……。