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ワイン

 苗子がちょっと楽しそうな、それでいて困ったような表情をした。

 ええ?予想できる範囲だよ?だって、目の前の人のこと考えてたんだもん。読んだ本の内容を思い出して一人別の世界に行っていたわけじゃないよ?突然空を飛ぶ箒に乗って月にいるウサギに会いに行くから、すぐにお土産のもち米を用意してとか、侍女を困らせるようなことは言ってない。

 ……いや、だから、6歳くらいの時の話だから。うん。もう、私も立派に大人だから。

 スカーレット様の侍女の顔を見ると、ニコニコと微笑んでいる。ほら、理解者もいるよ。

「お待たせいたしました、こちらへどうぞ」

 紫の宮の侍女に案内されたのは、謁見の間ではなく、中庭だった。

「どうぞ、堅苦しいのは無しで、座って座って~」

 うわぁっ。すごい。

 中庭には、大きな藤棚があった。

 藤棚の下には、赤い布がかぶせられた長椅子が3つと椅子よりも少し高いテーブル代わりの台が置かれている。

 長椅子の一つに、藤色の着物を着た女性が座って、私とスカーレット様を手招きしている。

「うえーっと、あなたが新しい黒の姫?噂は聞いたわ。なんか後宮には似つかわしくない容姿だって。だから、顔、隠してるの?」

 妙に間延びした声で話しかけられる。

「いえ、顔よりも、目が問題で。目が悪いので、相手の表情を見たくて目を細めると怒っているとか睨んでいるとか思われてしまうので目元を隠しています」

「ふぅーん、どんな顔なの?見せてぇ~。あ、それよりも、座って、座って、それから、えーっと、ほら、客人にも出してあげて」

 紫の宮の姫は、小柄だった。リスを思わせるような容姿。薄い茶色の髪に、濃い紫色の瞳をしている。美人というよりもかわいらしいという言葉が似あう……姿なんだけどなぁ。

 手に持っているのは、ワイングラス。中身の赤紫色の液体は……、間違いなくお酒だろう。

 さっきからフルーティーな香りとお酒の匂いが漂っている。

 そして、間延びしたというよりも多少ろれつが回らないような口調で紫の姫は話をしている。

 目の焦点も時々あやしいし、ほっぺはうっすらと赤みがさしている。

 酔っぱらってる……ようにしか見えない。

 紫の姫が侍女に命じると、侍女の一人がすぐにグラスを2つ用意し、なみなみと赤紫色の液体を注いだ。

「あら?」

 それを見て紫の姫が不快そうな表情を浮かべる。

「ちょっと、お客様にこんな色の悪いものをお出しするなんて……」

 紫の姫が、私たちに用意されたグラスの一つを手に取り傾けた。

 ドクドクドクっと、中身はあっという間に空になった。

「ふふぅ、ごめんなさいね。すぐにきれいなワインを用意させるわ。ほら、いつもの」

 侍女が小さく首を振る。

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