働きたくないけど辞めたくない
さて。この後の流れを苗子に確認しなくちゃ。部屋に案内してもらえるのかは?ここに残って働いてくれる人たちは結局古参の人たちばかりみたいだから、苗子が指示を出さなくても仕事はできるってことだよね?
「お、お願いします、鈴華様、どうか黒の宮で働かせてくださいっ!」
「何でもしますっ!下働きの仕事でも、庭の手入れの手伝いでも何でもしますから、置いてください」
あれ?私の行く手を阻むように、2名が走り寄り、頭を深々と下げた。
もしかして、くじ引きでいやいや来たのではなくて、率先して働きたいと思っていた人が混じってた?
「鈴華様、どうかこの手で鈴華様の魅力を引き出させてくださいっ!今よりも必ず素敵にして見せますっ!」
「それほど美しければ必ずや仙皇帝陛下のお目に留まること間違いありませんっ!どうぞ、未来の仙皇帝妃に仕えさせてくださいっ!」
魅力ねぇ、美しい?何が?誰が?
心にもないお世辞を並べ立ててまで、黒の宮に残りたい人までいたのか……。
んんー。
「侍女として不要というのであれば、トイレ番でも靴磨きでも何でも構いません、お願いします」
「な、何か気に障ることをしたというのでしたら、謝りますので、どうか、黒の宮に置いてくださいませ」
「わ、私も、お願いしますっ。どんなお叱りを受けても構いません。鞭に打たれる覚悟もございます。ただ、やめさせられるのだけは……!」
むち打ち?
いやいや、しないし。
それにしても、なんでここまで辞めたくないの?
「ごめんなさいあの、気を悪くしないでちょうだい。先ほど黒の宮で働きたくないという話が聞こえてきたのよ。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど……」
私の言葉に、ふらりとふらついて、何名か倒れてしりもちをついてしまった。
「も、申し訳ございませんっ、どうぞ、どうぞお許しください」
ある者は土下座をし、ある者は両手で顔を覆ってしまった。
「大丈夫よ、鞭で打ったりしませんし。その、私も働きたくないというのに無理に働いてもらうのも申し訳ないので……あなたたちも、いたくもない黒の宮にいるよりも辞めたほうが嬉しいでしょう?」
にこっと笑う。
と、侍女たちから嗚咽が漏れた。
うれし泣き?っていう声ではないわよね?
表情が見えないと不便ね。
ちょっとだけ目を細めて皆の顔を見る。
「ひぃっ、も、申し訳……ありま……」
あ、ガタガタと震えだした。
やっぱり目を細めた顔は怖いかな。ごめんなさい。
喜んでいる様子ではないよね。おかしいなぁ。
「本当に、黒の宮で働くつもりですか?でしたら……苗子、何か仕事はあるかしら?」
「そうですね、少し考えさせていただいても?」
「ええ、任せるわ。やめたい人はすぐに辞めてもらって構わないから。残りたいという人には、何か仕事を探してあげて」
「畏まりました。では、皆は持ち場へ。早速仕事をしてください。あなた方の処遇が決まるまでは庭の草むしりの手伝いでもしてきてください。わかっているとは思いますが、働き方の様子いかんではあなたたちの仕事はありません」
苗子の言葉に、元侍女3人と元湯あみ係4人と元調理人2人は、庭師の後をついて出て行った。
ん?誰もやめないってこと?
あんなに黒の宮で働きたくないって言っていたのに?
「あははははっ。実に面白いなっ」
天井から声が振ってきた。
読んでくれてありがとうございます。
んきゃ、誰か天井裏にいるっ!
鈴華さん、親切のつもりだったのに、皆の反応が思った感じじゃなかったよ?
顔を覆った髪をかきあげて見たら、皆が固まってしまったよ?
おかしいなぁ、なんでかなぁ……。っていう、お約束(*'ω'*)きゃは。