プロローグ~鈴華の過去~
仙人たちの住まう仙山。
雲よりも高くまで伸びた仙山の頂上には、仙皇帝が住まう皇帝宮がある。
世界は、仙山を中心として8つの国に分かれている。
それぞれが特徴的な色を持ち、その色にちなんで名前が付けられていた。
朱国……赤
蒼国……青
金国……黄
碧国……緑
珊国……桃
藤国……紫
銀国……白
――そして呂国。
呂とは、艶のある漆黒色である。
今から数年前の呂国での話。
物語の主人公である鈴華の視点で話を進めよう。
「お願いだ、どうか鈴華から婚約を破棄してもらえないだろうか」
1か月後の20歳の誕生日に挙式を上げる予定の婚約者が、目の前で土下座をしている。
「ほ、本当はもっと早くに鈴華との結婚は無理だと思ってはいたのだが、君は王女で、僕は大夫だ。僕から婚約の解消の申し入れなどできるわけもないと……覚悟は決めていたんだ。君のことは嫌いじゃない。だけれど、その……どうしても、君と子孫を残す姿が想像できないんだ……」
子孫を残すということは、夫婦となるということ、つまり女性として私を見ることはできないって話でいいのかな。
「分かりました。私から父に結婚はしないと。婚約は白紙に戻してもらうようお願いします」
土下座している夫になるはずの男の前を立ち去る。
あ、しまった。本を置いてきてしまった。取りに戻ると、元婚約者が友人と話をしていた。
「よかったな、いくら王女でもあんな不気味な女と結婚しなくて済んで」
不気味……?私の話をしていると思った瞬間、とっさに身を隠した。
早く立ち去ってくれないかな。本を取れない。
「ああ、いつも背中を丸めて本を抱えて。何時間もそのままで、時々薄気味悪い声をあげる」
本は大好きなんですっ。面白い本なら何時間もずっと読みますよね?面白かったり感心したりすれば声をあげることもありますよ。
本の読み過ぎでちょっと視力が悪くなって、背中を丸めて本を近づけないと文字が読めないのでそんな姿勢にもなります。
「時々、コキコキと骨を鳴らす音が聞こえるんだよ。その時の恐怖が分かるかい?」
いや、ずっと同じ姿勢だと体が固まってしまうから伸びをしますよ。そのときに骨が鳴ることもありますが。
「それは大変だったなぁ。本の妖怪、希代の醜女王女とは見た目だけの話ではなかったんだな」
え?本の妖怪?
「ま、これで心置きなくあの子と仲良くできるってもんだな。プロポーズするんだろ?」
「ああ。正式に婚約破棄されたらな」
と、まぁそんな過去を持つ、呂国の第一王女鈴華。
その後結婚話もなく26歳の立派な行き遅れが、何やかんやありまして、仙皇帝の後宮へと行くことになりました。
さてさて、どうなることやら。時を現代に戻し、鈴華が後宮に降り立ったところから見て見ましょうか。
ゆるゆるです。
主人公、いつも通りのゆるゆるです。
ご覧いただきありがとうございます。
中華風ファンタジーです。
8国は、和風の国や中華風の国の他西洋風の国もありますので、着物やドレスが混ざっています。
なんちゃってな世界なので、ゆるくお付き合いいただければと思います。