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レムゴール・サガ  作者: Yuki
第四章 異邦国家ダルダネス
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第四十話 権天使アルケー(Ⅵ)~迅る魔の熱風

 *

 

 無人の建造物が立ち並ぶ、ダルダネス市街。

 ここを戦場と見据えた少年少女に追い込まれたホワイトドラゴン・ディーネは、三方からの攻撃を受け続けていた。

 結晶化したドラゴンの形態である彼女は、建物で動きを阻害され、屋根の上から攻めてくる敵のおかげで上空に羽ばたくこともできない。羽の刃で建物を斬り刻み、障害物を破壊して広い場所を目指すが状況的な不利を打開することはできそうにない。


「いいわよレミオン!!! そのまま誘導して、絶対に広場まで行かせないで!! 私達の任務はこいつを殺すことより、主力へ加勢させないこと!! ――エルスリード!! 今よ!! もう一度!!!」


 隊長格エイツェルの声を受けて、エルスリードが絶対破壊魔導を放つ。最初は得体の知れない魔導に警戒していたディーネも、他の魔導同様“耐魔(レジスト)”が通用することが分かった今、冷静に耐魔(レジスト)を行い絶対破壊魔導を弾く。建物を消滅させる魔導を避けながら、レミオンが何度目か分からない上空からの強撃を仕掛ける。翼の刃と衝突し炸裂する音と衝撃を感じながら、レミオンは内心考えていた。


(……俺の力、弱まってきてやがるな。再生力も同じだろう。あの“不死者”の野郎の血の影響が刻一刻消えて、元の俺の身体に戻っていってるってことだ。

俺がこのザマで、姉ちゃんもあの時みてえな力を発揮できねえ以上――。多分あのザンダーっておっさんより強ええこのお姉ちゃんを殺すのは、エルスリードが居ても難しいな。エイツェル姉ちゃんの云うとおり、極限までだらだら時間稼ぎして、城内の戦闘決着を待つのが定石ってとこだろう。だが――)


「そんな詰まんねえ戦いで、このレミオン・サタナエルが満足できる訳がねえ!!! やべえ敵だからこそ!! 勝ってなんぼの物だろがあ!!! 母さんのようになあ!!!」


 勝ちに、行く。その意思表示どおりレミオンは、現時点でディーネの頸椎もしくは心臓を「傷つけられる」最短距離を行く積りだ。そして、女癖は悪いが女に暴力は振わず、敵であっても極力殺さぬが信条のレミオン。ディーネを殺さずに屈服させるという、到底実現不可能としか思えない業を本気で成そうとしているのだった。


 レミオンは歯をむき出し、三白眼となるほどに白目をむく凶相となって建物の屋上で身体を丸めた。そして溜めに溜めぬいた力を解放し、一気に地上30mまで跳躍。ディーネの不意を突くことに成功したか、羽の刃は間に合わずレミオンの身体はホワイトドラゴンの背中に見事着地した。


 目を光らせ、そのまま白竜の首の向こうにうあるディーネ本体に向けて飛びかかる。白髪と白衣の華奢な女性の背後とうなじが見える。獰猛に襲い掛かろうとするレミオンだったが――ディーネは鋭い眼光で振り返り、羽の刃を振っての斬撃を見事に止めきった。


「――“銀髪褐色一族”の少年。サタナエルの名を持つ者。ザンダーを殺したらしい君は仲間のアシュヴィンと違って、とても高慢で争いが好きなようだね。

だがこのディーネと同じ少ない寿命を縮めたくなかったら、悪いことは云わない、邪魔をしないこトダ」


「ご忠告感謝するが、その言葉そっくりそのまま返すぜ、キレイなお姉ちゃん。幼馴染の名前をなれなれしく出されてよ、あんたが大嫌いになったぜ。俺はこのやべえ戦いを楽しみてえから、むしろ有難てえ事だがなあ!!」


「――君は何を、そんなに焦っている、レミオン? 表には出さないが、『闇』を感じるな。ボクが愛する身近な人と、よく似た闇だ。もう一つ忠告するならば、その闇を自暴自棄な方向に向けないことだ。それは確実に、君の身を滅ボス!」


 パワーを強めてレミオンを弾き、乱打に持ち込むディーネ。レミオンはそれに応じ、見事な反応と強力なパワーで完全に受け切ってみせる。


「大きな――お世話だなあ!! 俺がんなウジウジした野郎に見えるってのか? だが危険な男に見てるってんなら、的を射てるぜ。女のあんたを殺すことなく、戦闘不能にすると予告してやる!!!」


「――!? 君の、魔力の中にかすかだが――異形を感じる。まさか、“不死者”!?

彼の血を、受けたというのカ君ハ?」


「ああ? 奴を知ってんのか。そうさ、俺は奴の血を取り込んだ。すげえパワーだ。卑怯呼ばわりしてくれても構わねえぜ。どんな手段を使おうが俺は、必ず勝利する!!」



「――レミオン!!!」


 間に割って入ったのは姉エイツェルの、声だった。自分の命令に反し突出し敵に真向勝負に出た弟。非難する以前に危機に陥ってしまった彼に助太刀するべく駆け付けたのだ。


「この化け物!! 弟に! 手出しはさせないわよ!!」


「――!!」


 背中に乗りかかり、斬りかかってくる銀髪褐色の少女。姉として弟を護ろうとする姉弟愛をもって迫ってくる純粋な瞳を前に、ディーネの表情に目に見えて動揺が走った。

 その姿に、己の姉を重ねたのか。斬り合いを展開するディーネの動きは明らかに鈍った。結晶の硬度にも影響を与えているかも知れぬこの好機を、見逃すはずもない魔導士の少女がいた。


「“光線破壊撃ラゼルストラング”」


 指先に集約した、絶対破壊魔導。かつてこの技を使用した将鬼長フレア・イリーステスは火口の岩石を消滅させ、敵ナユタの耳を吹き飛ばした。その威力には遠く及ばないものの――。集約された異常な貫通力を持つ負の光線の威力を直感したディーネは、己の胴体を狙うそれを必死の形相で避けた。

 結果、光線は惜しくも逸れてディーネのドラゴンの獣脚を貫通した。

 鮮血を迸らせて貌をゆがめたディーネはしかし――。


 突如、全く別の戦慄を感じて天を振り仰いだ。



「――――!!!!

な、何だ――この、膨大な魔力! これは、これはまるきり――!

姉さんの、そのものの、よウナ!!!」



 敵が感じたものと、同質の感触を――。


 レミオン、エイツェル、エルスリードも感じていた。

 だが彼らの表情は、緊張に凍り付いてこそいたが、同時にそれ以上の安堵に満ち溢れていたのだった。



 やがて――猛スピードで迫る「それ」は、彼らの戦場の上を、建物越しに「一瞬」だけ横切った。



 それははるか天空から落ちかかる、隕石にも似た災害級のエネルギー。炎の巨大な矢だった。

 正確には――暴虐な爆炎をまとった、異常な魔力と殺気の塊と化した――ひとりの魔導戦士だった。



「あの――あの方は――!!!」



 歓喜を上げるエルスリードに反し、蒼白な顔面に大量の汗を流し、おこりにかかったように震えるディーネ。



「ば――化け物……!!! あんな、あんなモノ――が――!!

姉さん!! 姉さんが危険だ!!! そこをどくんだ!! ボクが姉さんを護らないと!! 逃がさなイト!!!」



 そして異常な焦燥に駆られたディーネは死に物狂いの様相で、己を足止めする少年少女の排除に掛かったのだった。




 *



 アルセウス城、城内。


 エントランス内、扉付近の場所に悠然と立つ、アルケー・ティセ=ファル。


 敵の最高戦力シエイエスを屈服させ、その配下の銀髪褐色の女を無力化させ、彼女を護ろうとした戦士の男を魔導で叩き潰した。


「モーリィ!!!! モーリィいいいいいいい!!!!!」


 脳が欠け動けない状態で、悲しみに泣き叫び続ける女。

 すでに勝利を確実にしているティセ=ファルは、己の強大な魔導の解放で全身に走る痛みに耐えながら、止めを刺すべく一歩を踏み出す。


「そなたの想い人で、あったか。失う辛さはわらわにもよう解る。それ以上苦しむ姿を見るのは、この身としても忍びない。

すぐに後を、追わせてやろう。もう悲しむことは、ナイ」


 突き出した手先が空間を歪め、死の魔導を放つ準備に入る。

 魔導発動にかかったティセ=ファルの表情はしかし――。一瞬にして凍り付いた。



「何だ――!? この、魔力――!

いかん、このままデハ!!!」


 危機を察知したティセ=ファルは、瞬時に攻撃を防御の“障壁(バリエレ)”に変化させた。それも、最強クラスのそれに。

 彼女が感知した危機は、その後一秒とは空けず、場に到達していた。


 瞬間的に、大扉が爆ぜる。鋼鉄で造られた1トンに及ぶ物質が、その身を溶かしながら迫ってくる。すぐティセ=ファルの障壁バリエレに触れたそれは一瞬で叩き潰され破壊されたが、それと共に迫ってくる桁外れの強烈な爆炎が、彼女を驚愕させた。想像を絶する、火山の噴火に等しいエネルギーに覆われたティセ=ファルの障壁バリエレは――。大きく削り取られるのと同時に、彼女のフィールドから安定を奪った。


「まずい――この場に留まっテハ!!!」


 ティセ=ファルは焦り、背後の空間を大きく圧縮させて大きく飛び退った。だが爆炎は容赦なく障壁バリエレを削り、ついに――。彼女の頬をえぐり取り、傷を与えた!


「グッ……!!!」


 出血する頬を押さえながら、目前をにらみつけるティセ=ファル。

 そこには、炎をまとった一人の女戦士が、立っていたのだ。



 身長は170cm強。全身を艶めかしく包む黒レザーのボディスーツ、ジャケット、黒手袋といういでたち。黒い帽子の下は長く三つ編みにした金髪で――。おそらくはティセ=ファルよりもかなり年上であろう実年齢を全く感じさせない、若々しく美しい貌。表情は圧倒的な戦歴に裏打ちされた自信に満ち、そして――。ティセ=ファルですら恐怖を感じるほどの殺気、怒りに満ち満ちていた。

 そして最大の特徴。ティセ=ファルに向けられた、禍々しい巨大クロスボウ。その内部から突き出たオリハルコンの刃は、真っ直ぐにティセ=ファルの眉間を捉えている。見事な立ち姿は、これだけの馬鹿げた魔力に加え、彼女が至高の剣士であることを示すものだった。



 女戦士を見たシエイエスが、苦し気ながらも言葉をかけた。



「来て……くれたか、シェリーディア……。

すまん……俺が、不甲斐ないばかりに……!」



 声をかけられた女戦士――シェリーディア・ラウンデンフィルは、敵への強い視線を崩さず、返した。


「シエイエス……アンタは、十分過ぎるぐらい、やってくれた。皆を護ってくれた。不甲斐ないのは……対応が遅きに失しちまった、アタシの方だ。ケガしてるとこすまないが、治ったらメリュジーヌの事、よろしく頼むよ」


 そしてついに、殺気を込めぬいた怒気を、敵に向けたのだった。


「オイ……てめえ……。

てめえだよ、クソ小娘……! アルケー!!

よくも、やってくれたねえ。礼儀を、友好をもって接したアタシたちの言葉を踏みにじり――大事な仲間を!! 息子達を危機に陥れ、シエイエスを、メリュジーヌをこんなにし――モーロックを殺してくれやがった!!!

許さないよ。情けはかけてやれねえ。この“魔熱風”シェリーディアの全身全霊の戦力をもって、てめえを跡形なくこの世から消し去ってやるよ!!」

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