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レムゴール・サガ  作者: Yuki
第四章 異邦国家ダルダネス
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第三十五話 権天使アルケー(Ⅰ)~開戦

 *


 無人の野を駆け、辿り着いた敵本拠、アルセウス城。

 嘘のように静まり返った、無人の前庭広場を一団は歩いていく。


 アシュヴィンはまだ1日とは経たぬ前の時に、この広大な広場の片隅にアキナスとともに息をひそめていた。そしてアルケー・ティセ=ファルの念話による演説に圧倒された。あの時目が合い、一にらみで殺されるかと思った恐怖の対象が全力をもって、この居城の中で自分たちを待ち受けている。改めて、背筋に震えが走った。


 

 城内への入り口、巨大な鉄扉は開いていた。

 内部もまた、当然のごとく無人。ここまで徹底していると不気味という他はなく、それを広大な建造物内が最大限に増長させていた。


 意を決し、足を踏み入れる一団。

 内装の至る所に掲げられた燭台には、青く煌々と光を放つ“蒼魂石”が装着されており、窓の少ない構造ながらも光量に難儀することはなかった。


 そこは、エントランスホールだった。50m四方以上はあろうかという面積に、高さ30mに及ぼうかという広大な空間。

 内壁は鈍色に光る、アダマンタイン。そこに這う、無数のパイプや線類。その上から漆喰や木材を用い、城内にふさわしい内装を施している。床には仕立ての良い赤い絨毯が引かれる。そこそこ豪華絢爛ではあるが、優美とは云い難かった。


 中央には、豪華なレリーフ様の手すりが付いた、長くゆるやかな螺旋階段がある。

 上階に向かって伸びるそこに、メリュジーヌの射るような視線が向き――。彼女はシエイエスに向けて鋭く、云った。


「シエイエス様! ――あそこに!」


「ああ……分かっている、メリュジーヌ」



 2人がその言葉を発した瞬間――。



 一団の全員の頭上から、巨大な有刺天井が降り、脳天から脊椎を刺し貫く――。

 そのように表現されて然るべき、「魔力の暴力」が降り注いだ!


「――!!!」


「くっ――!!」


「き――やああああ!!」


 耐えられる者は耐え、エイツェルのように耐えられない者はたまらずに悲鳴を上げる。

 

 それに、覆いかぶさるように――。ぞっとするほど無感情な、澄み切った女性の声が空間に響き渡ったのだった。



「流石よの……。やはりそなたら2人が、この中では突出した魔力感知能力者であるな。

察知されたゆえ遠慮なく、魔力を解放させてもラッタ」


 思い出すに――恐怖と「快楽」の両面で――ぞっとさせられる声に戦慄するアシュヴィンの目が捉えたのは。

 螺旋階段を優雅に降り来る、アルケー・ティセ=ファルその人だった。

 しなやかで艶やかさに溢れた身体、さらさらの白髪をなびかせる絶世の美貌。

 すでに目にしているシエイエス、ロザリオン、アシュヴィン以外の者は、敵の首魁の脅威と乖離した姿に、一瞬目を奪われる。


「シエイエス……それがそなたの名か。変異せし者。

そなたが、ハルメニア人らの首魁との妾の認識は間違っておらぬのカナ?」


「間違っておらぬ。我はシエイエス・フォルズ・サタナエル。ハルメニア大陸より来たる旅団レエティエムの長だ。ティセ=ファル・ラシャヴォラク殿。お初にお目にかかる」


 もう半分ほど階段を降りているティセ=ファルは、冷笑し言葉を続ける。


「サタナエル、とな――? 銀髪でも褐色でもないそなたがその名を名乗るということは、かの一族と婚姻した、と? 物好きな人間も居たものダナ」


 ティセ=ファルの言葉に、シエイエスの目が鋭く光った。

 彼女のその反応は、銀髪褐色肌のサタナエル一族がレムゴール大陸においても同族姓を名乗る固有の存在であるという、有力な情報を示すものだ。さらに云えば――ハルメニア以上の差別的な、極めて特殊な位置づけにあるようだということも。


 シエイエスは慎重に、ティセ=ファルに向けて言葉を返した。


「ご明察だ。我が亡き妻レエテ・サタナエルは一族の者。だがハルメニアで彼女は最大の英雄であり、一族もまた平等に尊厳を得られてはいるがな。

ご招待に預かり感謝する。我々は不幸な出会いと、不幸な争いの元、ここまで互いに多くの死傷者を出すに至ったが――。それでもなお我より、最後の和平交渉をさせて貰いたい。

どうか我々の命を狙う事を止め争いを終止し、このレムゴールの事情について詳細にご教授致してはもらえないか。我らの目的はそれ以外にないのだ」


 僅かな一縷の望みをかけて放たれた言葉。しかし当然のことながら――。

 それが微かにもティセ=ファルの胸に響くことは、なかった。


「不毛だな。知っていようが我らの目的は、魔力なき世界の構築。魔力持てし人間に赦しを与えることは断じてない。

これは世界の監視者“ケルビム”の意思である。わらわにはただ――『執行』あるノミ!!!」


 

 瞬間――。


 明確な殺意をもって一気に膨れ上がった、魔力。

 遂に魔導の形態をなした――ティセ=ファルの“打壊魔導”。


 彼女を中心とした半径数十mにおよぶ、絶大な威力の破壊球。


 その脅威を察知した一行は、事前の作戦どおり全力で後方へ跳躍し耐魔(レジスト)をまとう。


 シエイエスだけは敢えて前進し、若者達を護るべく耐魔(レジスト)を全力で巡らす。


 彼の強大なる耐魔(レジスト)は、ティセ=ファルの初撃を完全に防いだかに見えたが――。


 打壊のエネルギーは防ぎきれずにシエイエスの肉体を襲い、展開させた肋骨のうち2本と、右手首から先を瞬時に潰し切り消滅させた!


 父のその姿を視認したエイツェルが、悲痛な叫びを上げる。


「お――お父さんんんんーーっ!!!!」

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