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レムゴール・サガ  作者: Yuki
第四章 異邦国家ダルダネス
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第十八話 奈落への誘い

 落ち、姿を消した強敵を見極めたレミオンは、狂喜の表情で叫んだ。


「はっはははははあああああ!!! ざまあみやがれ!! アンラッキーを実力でラッキーに変えてやったぜ! ――まったく、云わなくても通じ合っててやっぱ姉ちゃんと俺は夫婦以上の、最高のコンビだよ! 愛してるぜ、姉ちゃん!!」


 レミオンの熱烈できわどい台詞に、エイツェルは三度貌を沸騰させて応えた。


「バ――バババ、っバカ!!! こんな時までふ――ふざけてんじゃないわよ!! まだ『そんな』こと云ってんの!? あんましつこいと、あたしホントに――」


 

 ――エイツェルの言葉は、強制中断された。


 なぜならば、彼女の腹部、そして向かい合うレミオンの太腿に。

 坑道からせり上がり、超スピードで真っすぐに伸ばされていた結晶触手が貫き、先端を固定し二人を強烈に引き寄せていたからだ。


 奈落の坑道に。


「ぐ――ふ……! な、なんで――あ――いつは――」


「く――姉ちゃんっ!!!」


 血を吐き出すエイツェルを案じるレミオンだったが、もはや抵抗のしようもないほど強烈な力で彼らを引き寄せる結晶触手は、床面を削り取りながらついに二人を奈落へ(いざな)ってしまった。


 下方に恐ろしいほど広く深い口を開ける坑道。

 巨大なスケールで展開する坑道の側面には、大量の労働者や兵士が騒ぎに気づいているのが見える。

 そして100mはあろうかという坑道の丸い底には、青い光を放つ鉱石が一面に広がる。

 最後に、その姿を確認できたのは。

 自分たちに結晶触手を伸ばし、落下の道連れにしようと攻撃を仕掛けた張本人。

 巨大な犀の肩部で異様に豪快な笑顔を浮かべる、“デュアルライノセラス”ザンダーだった。


「がはははははああああ!!!! はははは!!!! おおおお!!?? あん程度でワシをどうこうできる訳がなかろうがあ!!! 呆けがああ!!! おのれらにも付きおうてもらうぞおお!! 耐えられよるかのお!!?? この高さからの衝撃になあ!? 見ものじゃわああ、ナアアアア!!??」


 坑道中に響き渡る大音量の叫び。ザンダーが己の身体から長く伸ばした結晶触手に引かれ、急速に落下しようとするレミオンは、歯を噛み鳴らした。油断したし、してやられたのは確かだが、このまま手をこまねいていては姉ともどもほぼ死を免れない。ザンダーの様子からして、彼の装甲ならばあるいは落下しても無事なのかもしれないが、自分たちはそうではない。通常人と違い運がよければ直撃落下で身体を大きく損傷しても生きている可能性はあるが、この不安定な状況では頸椎と心臓を確実に守れる保証はない。腹部をやられて大量出血し、意識が朦朧としているエイツェルはなおさらだ。


「く――そがああああああああ!!!!」


 レミオンは絶叫し、全力で背筋と腹筋を駆使して身体を急激に反らせ、落下の軌道を変えた。

 坑道の壁面に近づいた彼の身体はすぐに構造物の一部に身体を接触し、それを粉々に破壊すると同時にやや落下を減速。その機を逃さずレミオンは壁を蹴ってエイツェルに近づき、まず彼女の腹の真ん中を貫通している結晶触手の側面を目がけて伸長手を突き刺した。そしてそのまま結晶手を横に薙いで彼女の腹を切り裂き、結晶触手のくびきから解き放った。

 そして腸などの内臓を零れさせるエイツェルの身体をしっかりと抱え、まずは伸長手を壁面に打ち込み突き刺す。


「うおおおおおおお!!!!」


 当然ながらレミオン達の落下の衝撃を弱めながらも切り裂かれていく壁面。十分ではないと見たレミオンは伸長手を縮めてさらに壁面に近づき、蹴り足をも壁面に突き刺した。


「止まれやあああああ!!!!」


 伸長手と同じく壁面を破壊していくレミオンの脚。必死の落下減速を試みる彼と、エイツェルの身体はしかし、一寸早く地に到達したザンダーに続いてついに蒼魂石の鉱石床に向かって落下してしまった!


 

 重量物が加速し地に激突した、大轟音。そして、衝撃で巻き上げられる土煙。作業員や兵士達の上げる悲鳴と喧騒。



 20秒ほどののち、土煙の中で巨大な影が巨大な音をたてて、瓦礫をはねのけて勢いよく立ち上がる。

 ザンダーだった。彼の装甲に覆われた巨体は細かな傷が無数についていたものの、それも見る見るうちに再生を遂げているのが見て取れ、ゼロではないだろうがダメージは最小であるように見えた。



 そして彼の獰猛な視線の先で――。土煙の向こうで起き上がる人影があった。


 同じく瓦礫をはねのけ、上半身を立ち上がらせたレミオンだった。その腕には――意識を失いかけて息を弾ませている、血まみれのエイツェルの姿があった。


 ザンダーはその姿を悠然と見下ろし、叫んだ。


「ようやるわああ!! 大したもんじゃ!! まだガキじゃろうに、大した度胸、大した機転、大した頑丈さじゃあ!!!

もうこっからじゃ落ちようはありはせんわ!! おのれの真価、もちろんワシにまだまだ見せてくれよるんじゃろうナア!」


 レミオンは――おそらく姉の身体をかばい受けた内臓損傷からせりあがってくる吐血を勢いよく口から吐き出した。全身を支配する苦痛と消耗はあるが、無論まだまだ戦える。


「――たりめえだろうが、サイのおっさん。

俺をな、誰だと思ってやがる。サタナエル一族の一員にして、ハルメニア大陸史上最強の戦士の血を引いてんだぜ。“血の戦女神”レエテ・サタナエルの血をな。

勘違いすんじゃねえよ。てめえごとき――むしろてめえに、俺が胸を貸してやる立場なんだぜ。

頭が、高けえんだよ。下げる気がねえってんならなあ! 今から俺がその空っぽの頭を引っ掴んで、地面に引きずり降ろしてやるぜ!!!!」

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