第六話 結晶手の死神
ロザリオンによって右手結晶手の先端を寸断された、フィカシュー。それを驚異的な速さで自身の身体に戻しながら、彼はメリュジーヌとモーロックらサタナエル一族が発現した結晶手に対し、驚愕に目を見開いていた。
「なんと――結晶手、だと? その姿カタチといい、まさかとは思ったが貴様ら――。
クックック――面白い。ならば尚の事、貴様らを生かしておくわけにはいかなくナッタ」
――ロザリオンの目がこれまでで最も鋭い光を放った。
「貴殿は――その結晶手といい、我らのサタナエル一族について何かを知っているのだな?
ならば聞かせてもらおう、首根っこを捕まえてでもな!!」
一気に3mもの怒涛の踏み込み、“神閃”の水平斬りを放つロザリオン。
150cmにも及ぶ長刀の一閃は、隙を見せたフィカシューのリザードグライドの首から胴にかけて見事に命中した。
即座に後方へ引いたロザリオンの目の前で、鮮血を噴き上げ地に伏すリザードグライド。そして間髪入れずに跳躍し、ロザリオンに襲いかかるフィカシュー。
「おおお!!!」
「把っ!!!」
今度は無事な左結晶手を、伸長膨大させずに脳天から叩きつけるフィカシュー。そしてそれを天方向への弧を描くような斬撃で迎撃するロザリオン。
抜刀術の溜めを伴わない一撃では、さすがに結晶手を寸断するまではいかない。フィカシューの結晶手と“神閃”は打ち合い、互いの反発力をもって互いの身体を離した。
フィカシューは着地すると両手を広げ、1mほど結晶手を伸長させて見せた。そこで、驚くべき変化を、ロザリオンは認識した。
自分が切り落としたはずの、敵の右掌。それが、あろうことか――。
不気味な音を上げて、「再生」し始めていたのだ。
「――っ!!」
ロザリオンは驚愕し、歯噛みして周囲の配下たちを見回した。敵は白い肌の人間に見えるが、完全にサタナエル一族と同じ能力をもち、なおかつ彼らにはない能力をも備えている怪物。
想像を絶する、強敵だ。こちらがいかに数に勝るとはいえ、超常能力を駆使し振るわれては明確に力負けする者がほとんど。壊滅は時間の問題だ。
一部の強者を、除いて。
その強者の一人、モーロック・サタナエル。
195cm、160kgの彼は、その両手に発現させる結晶手の大きさも規格外だ。長さ、よりも分厚さと幅の度合いが、同じサタナエル一族男性のレミオンと比較して倍にもおよぶ。またレミオンの二まわりも太い腕から発揮される怪力、自重がもたらす突進力は凄まじい。
「おおおおおああああああ!!!!」
温厚な普段の彼からは想像もつかない、悪魔のような凶相で右結晶手を振り下ろすモーロック。
大斧のごときそれは、目標としたレムゴール兵がガードした腕ごと振り抜き、頭部から頚椎までを完全に粉砕した。
そして、返す左結晶手を瞬時に解除し、敵が繰り出してきた結晶手を見極め掴み、超怪力で持ち上げ高速で振り回した。
そのまま殺到する敵2名に向かって叩きつける。極大のメイスのようになった味方兵の身体が衝突し、身体をひしゃげさせながら吹っ飛んでいく敵兵たち。
それを見極めるとモーロックは、掴んでいる敵兵の頭を引き寄せ、左結晶手を発現させてその首を切り落とした。
ロザリオンの斬撃傷を「再生」したフィカシューの姿を目にしていたモーロックは、戦闘中であるが己が斃した4名の敵を一瞬観察した。
最初に頭を叩き割った男、首を刎ね飛ばした男は、完全に息絶えたようだ。
だが、胴体を破壊し吹き飛ばした2人の男。肋骨、背骨の粉砕。肝臓、胃、腸はねじれ切れ致命的破壊。常人ならまずショック死しているであろう被害の彼らは、生きていた。意識すらあり、自分たちのものと同じ細胞の再生音と蒸気を上げながら、再生を開始していた。
(こいつら――。どういう訳かとんと分からんが、完全に我が一族と同じ生命力、致死箇所を持っとる。身体能力はやや劣るようじゃが――結晶手に関しては、変形能力の面で上回る。
こんな奴らが20人もおったら――。おれとメリュジーヌ、ロザリオン以外の兵どもじゃあとても……)
見回したモーロックの予感は的中した。彼が名を上げた強者以外は、切りつけても切りつけても再生し悪夢のような結晶手攻撃を繰り出す相手に、完全に劣勢だった。なすすべなく討ち取られつつあり、このままでは全滅の憂き目を見るだろう。
モーロックは恐ろしい音をたてて歯噛みし、全軍に伝わる怒号で命令した。
「我軍に告ぐ!!!! 将以外の者、即時撤退せよ!!!! すまぬが一族以外の者が殿となり、できるかぎり一族を逃がせ!!!! 繰り返す、即時撤退せよ!!!! そして本隊に状況を伝え、護りを固めるのだ!!」
その命令を聞いた兵士たちは、応戦しつつも撤退に舵をとりはじめた。命令どおり一族の人間が先に逃げ、それを他の兵士がカバーする。だが規格外の強敵の前に、それもままならない状態。
「邪魔はっ!!!! させぬぞおおおおおお!!!!」
そこへ、モーロック自身が突撃し、怒涛の両手結晶手斬撃で敵兵を血祭りに上げる。
自身らの脅威が粉々に寸断されていく様を見て、兵士の一人が悲痛な叫びを上げた。
「モ、モーロック様っ!!! 感謝したします!!! どうぞご無事で!!!」
逃げ去る兵士を見て追おうとしてくる、5名もの敵。それに対しモーロックは振り返り応戦するが、すでにモーロックの強さと戦法を目にしている敵は、散開して同時に全方位から襲いかかってくる。
動きで敵を翻弄できない、パワー型のモーロックの弱点をつく攻撃。避けきれないと判断した彼は、右の背中、左肩を完全に捨て犠牲にし、前方扇状の敵に対してのみ全力の攻撃を行った。
攻撃を受けた敵は致命傷とともに吹っ飛んだが、右の背中、左肩には敵の結晶手が完全に突き刺さった。モーロックの超筋肉により身体の貫通は免れたが、ダメージを表す鮮血が恐ろしい量噴き上げた。
「ぐううっっ!!」
「いやあ!!! モーロック!!! モーリィいいいい!!!!」
その様子を見て青ざめ、悲痛な表情で泣き叫ぶメリュジーヌ。
「てめえらあ――よくもあたしのモーリィをっ!!!!」
自らも大量の敵を相手どっていたメリュジーヌは、激昂の表情に変わり交差させた結晶手を下方に下げ、爆発的魔導を発生させた。
「連追撃雷光!!!」
“紫電帝”ヘンリ=ドルマン直伝の、一掃雷撃技。連なる雷撃が周囲の4名の敵を貫く。敵の特性を目にしていた彼女も、雷撃が心臓を通過するよう狙いを定めて。
激しい痙攣の後即死した敵を確認せず、モーロックの救援に直行するメリュジーヌ。普段の軽妙な態度からは想像もつかない、あまりに必死の表情だった。
しかし彼女の前で、無情にも3名の敵がモーロックに殺到していった。ダメージを与えた敵を一気呵成に倒そうとする、常道にしたがった戦術だ。
超戦士のモーロックであったが、右胸貫通に近いダメージを受けた直後で、3名の敵に対応することはできなかった。
「やめてえええええ!!!! お願い、やめてえええ!!!!!」
メリュジーヌの喉を潰すような絶叫虚しく、3名の変形結晶手はモーロックの頭部を破壊し、残り2本が深々と胴体を貫通していったのだった。




