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理想の夫



「ん〜…ユノ様の希望を叶えられる可能性がある男なんて、3人くらいしか思い当たらないっすね。」


宿屋の部屋で世界地図を広げ、レオはアシュリア大陸の東にあるナザーク大陸の西の国を指差した。


「まずはナレスト王国の宮廷魔術師 グラナード。魔物の多く生息するナザーク大陸で、『魔狩り』として名を馳せてる魔術士っす。一応アシュリアのへカテリーナ、ナザークのグラナードなんて評される位には実力者っすね。」


「容貌は?」


「へカテリーナ様と似たようなもんですよ。黒のローブに身を包み、人前には殆ど出ないから容姿の情報がありません。でも、魔物に襲われてた隣国のお姫様を助けた時、そのお姫様が一目惚れして求婚してきたなんて言われてますから、それなりにいい男なんじゃないっすか?」


「そうか。なら会ってみる価値はありそうだな。」


上から目線な姉弟子に、レオは心の中で溜息を吐く。

終戦の翌日、目覚めたかと思えば

『愛する者と結ばれ、子を成し、穏やかな日常を過ごす事にした。故にこの国を出る。達者で暮らせ。』

なんて言われたから、この人形の様な人にも恋愛感情なんてあったのか‼︎と驚いたが、聞けば行く先どころか相手もいないという。


レオはへカテリーナが拾われた一年後、フィルゼンにへカテリーナの話し相手として引き取られた孤児だ。

明るくよく笑う子供なら、へカテリーナに良い刺激を与えるのではないか…という思いかららしい。

それでも、二人に平等に愛と教養と魔術の知識を与えてくれたフィルゼンの事を、レオは本当の親の様に慕っていた。

だからこそ、フィルゼン亡き後、へカテリーナを守るのは自分だと思って生きてきた。

強大な力を持ちながら、子供の様に真っ白で危なっかしい姉を。

しかし…ここまで世間も常識も通用しないとは、頭が痛い話だろう。


「まぁ、私は人の美醜がよく分からないからな。人選はお前に任せる。」


愛する者…つまり夫探しの旅。

それはへカテリーナの為ではなく、前世の願いを叶える為だと言う。

まずは『前世ってなんだよ!』と突っ込みたいが、へカテリーナが言うのであれば間違い無いのだろうと、レオは納得している。

人智の及ばぬ領域に立つのが彼女だから。


しかし、前世はかなり人間らしい性格だったようだ。

愛するという感情をまだ理解出来ないへカテリーナには、当然好みだとか結婚の条件的なものがない。

対照的に、優乃はそこらへんの条件が明確だった。


『彼氏にするなら絶対イケメンじゃなきゃイヤ。勿論、超強くて、逞しくて、腹筋割れてて、私を守ってくれる人が良いわ!』


どこの勇者様だよ。と、レオが突っ込んだのも仕方ない。

一方で、転生を繰り返す切っ掛けになったシアナは、実に常識的だった。


『優しくて、私を愛してくれる方と結ばれたい』


同じ魂の持ち主とは思えない落差だ。

まぁ、そんなわけで、旅の目的地を決めるために話し合いをすることにしたのだが、こんな条件に合う人物などそうそう居ない。

前提からして、へカテリーナを守れるだけの実力者がいるのかも分からない。

名と髪色を変えていても、いつかはユノが【暴虐のへカテリーナ】だと気付く者が現れ、命を狙われる可能性がある以上、それなりの実力者でなければならないからだ。


(まぁ本当に襲われても、ユノ様が瞬殺しちゃうんだろうけどさ。)


「レオ、後の二人は?」


「はいはい、えっと…ナザーク大陸の西にあるシルヴァニア王国の騎士団長、アレン・シルヴァ。名前の通りシルヴァニア王家の血筋を引いてて、確か公爵家の次男坊っすね。剣の腕も立ちますが、人柄も良く、そのイケメン?でしたっけ?容姿は折紙付きっす。『微笑みの貴公子』なんて呼ばれて、大陸中の女の子の憧れらしいっすからね。」


「ほう、条件は満たすな。」


「で、最後はアシュリア大陸を中心に活動しているSSランクの最強冒険者 ガイアス。俺たちが人間同士で争ってる間、魔物の相手をしてくれてた男っす。どんな過酷な任務も必ず遂行するってんで、付いた名が『不死の双剣』。」


「不死?」


「必ず生きて帰ってくるからって意味だと思いますよ。優しいかは知りませんが、中々精悍な顔立ちらしいし、最高位冒険者なら超強くて、逞しくて、腹筋割れてるんじゃないっすかね。ただし、相手は冒険者なんで、今どこにいるかは分かりません。ギルドに聞けば情報があるかもしれませんがね。」


「そうか。だが、アシュリア大陸を中心に活動しているのであれば、まずはこの冒険者から会いに行く事にしよう。」


立ち上がるユノに続き、レオも地図をしまって宿屋を後にする。

即決、即行動は、いつもの事だ。

悩んだり、躊躇ったりなんて、きっと理解も出来ないのだろう。

知りたいから学ぶ。

邪魔だから排除する。

欲しいものは手に入れる。

それがへカテリーナ…いや、ユノ・ミズリーなのだから。


「あ、ユノ様、夫候補に会いに行く前に言っておきたいんですけど。」


「なんだ?」


「その話し方、どうにかした方がいいですよ?アシュレイ陛下そっくり過ぎて、威圧感半端ないし、何より女性らしさがない。」


「女性らしさが必要か?」


「当たり前でしょ。お忘れですか?ユノ様だって夫候補に愛してもらわなくちゃいけないんですよ?じゃなきゃ、どんなに相手が条件ピッタリだって意味がないんですから。」


「それは…失念していたな。」


愛されたい…なんて思った事もなかった。

案にそう告げるユノにレオは苦笑するしかない。


「いいだろう。優乃の言葉使いは難しいが、シアナの言葉を真似てみるとしよう。女性らしく、愛されなければならない…か。今までのどの指令より難易度が高そうだ。」


ククッと喉で笑うユノの表情はどこか楽しげで、宿を出るその足取りも軽かった。


「ま、ユノ様の美しさがあれば、言葉使いなんて些末な事ですがね。」


「よく貴族達が言っていた女の武器とやらか。ならば我が持てる力の全てをもって、ガイアスとやらを攻略しに行くとしよう。」


今まで感情のない人形の様だったへカテリーナの笑顔など、一度も見たことがなかった。

だからレオにとって、他人の記憶のためにへカテリーナが結婚を考えている事に納得はいかなくても、感情が生まれた事は素直に嬉しかった。


嬉しかった…のだが…


(でもさ、話し方だけじゃなくて、笑い方も陛下そっくりってどうなの?)


美しさが勝るか、威圧が勝るか…

ちょっと幸先に不安を覚えるレオであった。






next…



















優乃ちゃんはちょっとミーハーなオタク系JKのようです。


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