ユノ・ミズリー
「ちょっと、ユノ様聞いてます⁉︎」
「うるさい。文句があるなら付いて来なければいいだろう。」
「金の使い方も分からない世間知らずが何言ってんですか‼︎とりあえず着替えますよ‼︎」
「これが今の戦闘服だと言っているだろう。まったく、キャンキャンとよく吠える犬だ。」
「誰が犬ですかっ‼︎そもそも戦闘服って、そんな破廉恥な格好で、何と戦うつもりです⁉︎ちょ、そんなに早く歩かないで下さいよ‼︎揺れてるっ‼︎溢れる‼︎見えちゃうって‼︎」
城の城門前でやたらと破廉恥を連呼するレオに、ユノは改めて自分の姿を確認する。
記憶の中の戦闘服は、確かにこれで間違いない筈なのに、何が問題なのだと眉を寄せた。
身体にピッタリと吸い付くようなフロントジッパーのボンテージビスチェは物理防御力の高いブラックダイルの革製。
だが豊満過ぎる胸を三分の一程度しか隠していない為、確かに戦闘服としては防御力に欠けるのではないかと思っている。
レオの言う通り、あまり激しく動くとぽろっと出てしまいそうだが、これはユノが記憶の中のイメージから魔法で作り上げたオーダーメイドの為、フィット感は悪くないらしい。
「それに脚も出し過ぎです‼︎」
しなやかで撥水性の高いブラックディアの革で作ったロングスカートは、両サイドに腰近くまでのスリットが入っており、咄嗟の動きにも対応しやすいだろう。
ロングブーツはビスチェと同じブラックダイルの革製で、スリットから覗く太ももが白と黒のコントラストから眩しく映える。
「優乃の記憶がこれを戦闘服だと言っている。」
「…ユノってへカテリーナ様の前世でしたよね。どんな方か気になるんですけど。心から。」
瞳を閉じて記憶を辿る。
優乃は、へカテリーナとして生まれる一つ前の前世。
そのせいか、転生を繰り返す原因である二万年前の女…シアナの記憶と同じくらい鮮明な記憶がある。
地球と言う魔法の無い世界の日本という場所に生まれた、愛らしい少女だった水理 優乃。
新たな名はこれを文字ったものだ。
彼女は本や漫画と呼ばれる絵物語を読むのが好きで、魔法への強い憧れがあり、いつも異世界へと想いを馳せていた。
『乙ゲーの世界に転生出来たらなぁ…』
『チート能力で異世界召喚されたい…』
魔法を求めるのは、この世界にいたシアナの影響だったのか、魂に刻まれた記憶のせいかは分からないが、とにかくそんな事ばかり考えていた。
『魔法使いだったらこんな衣装で〜…めっちゃ強くて美人で…。聖女もいいよね!あ〜、でも冒険者もいいなぁ。素敵な人とパーティー組んで、世界を股にかけるっていうのも捨て難い…武闘派聖女はありかな…』
色々と妄想力の逞しい少女だった。
「なんていうか…へカテリーナ様の前世とは思えない性格ですね。てか、武闘派聖女って、なに目指してんだ…」
「記憶はあっても思考までは分からないが、私の口数が増えたのは、優乃の影響だろうな。まぁ、せっかく希望通り魔法使いに生まれたんだ。憐れな娘の願いくらい叶えてやるさ。」
「憐れって…」
「愛も恋も知らぬまま魔法のある世界に憧れ続け、若くして死んだらしい。車と言う箱に押し潰されて。」
黙ってしまうレオに、ユノは首を傾げる。
「なぜお前が悲しむ必要がある?もう過ぎた事だ。」
「いや、確かにそうなんですけどね…。なんかやり切れないっていうか…」
「そう思うなら、戦闘服に口出しをするな。これは優乃がデザインしたものらしいからな。」
「いや、過去の人よりへカテリーナ様が大事っすよ!だいたいへカテリーナ様は」
「ユノだ。」
「ユノ様は、外見だけなら文句のつけようが無い美人なんすよ⁉︎その上胸もでかくて最高だし、スタイルも抜群だし、色っぽいし、胸もでかいし‼︎そんな魅力的な女が肌晒して歩いてたら、変な男共が群がってきますって‼︎」
レオの力説に、二度指摘された胸元を見る。
「分からんな。男とはこんな脂肪の塊が好きなのか?」
「なに鷲掴みしてんですかっ‼︎って、掴みきれてねぇし‼︎指埋まっててふかふかですか⁉︎」
「ふかふか?分からんが、気になるなら触ってみればいいだろう。」
ほら。と目の前に立つユノに、レオの顔が真っ赤に染まって目を回す。
「なっ、ばっ、出来るわけねぇっしょ⁉︎16歳のいたいけな少年になに⁉︎主人に対して、いや、そりゃしたいけど‼︎触ったり、埋まったり、挟まったりしたいけどね⁉︎流石にこんな往来では出来ないっていうか、ムードなさすぎっていうか…破廉恥過ぎでしょアンタ‼︎」
「キャンキャンうるさい。あと、私はお前の主人ではなく姉弟子だ。それに16ならば結婚していてもおかしくない歳の筈だろ。ん?シアナの記憶は古過ぎてあてにはならんか?優乃の世界では20歳で成人だからな…」
ガックリと脱力しているレオに背を向けて、ユノの唇が動く。
「創作・変化」
言葉と同時に黒い羽根が舞い、それは一瞬にして形を変えた。
ブラックダイルの革と、襟元にはキングクロウの艶やかな黒羽根がふわふわと揺れるボレロを纏い、漆黒の髪が銀色へ、真紅の瞳が深い蒼に変わる。
「そこの門兵、皇帝に伝えよ。これがユノ・ミズリーの姿だとな。」
「ヒッ‼︎承知いたしました‼︎」
「レオもこれでいいだろう?」
別人の色彩に変化したユノに、レオは言葉を失い瞳を瞬かせた。
「普段重いローブを着ていたからな。流石に私もあの姿は落ち着かん。それに、夫候補に『破廉恥だ!』などと言われてはかなわんからな。」
「………」
「なんだ?私の美しさに見惚れているのか?」
クスッと笑うと、レオの顔が真っ赤になって、コクコクと頷く。
「マジで綺麗っす!」
「そうか。ならば行くぞ。夫探し…ん?ここはアレか、『婚活』の旅の始まりだ。」
next…
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銀髪 蒼眼 漆黒のお色気装備 ユノ・ミズリーの婚活の旅が始まります。
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