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最強魔導士は我が道を行く

ストックがあるので、序盤はサクサク更新出来ると思います。



「アシュレイ、私はここを出る事にした。レオがどうしても付いて来ると聞かんので連れて行くぞ。」


「そうか。二人とも達者で暮らせ。」


アシュリア大陸統一という偉業を成し遂げた祝賀会が開かれる中、勝利の立役者たるへカテリーナは、若き皇帝アシュレイにあっさりと別れを切り出した。

更に驚いたのは、皇帝もそれをあっさり受け入れた事だ。


「へ、陛下‼︎お待ち下さい‼︎これは国家の一大事ですぞ‼︎その様に簡単に頷かれてはなりませんっ‼︎」


流石と言うべきか、最初に状況を把握した宰相からの進言に、一気に広間が大騒ぎとなった。


へカテリーナを失うと言うことは、帝国の戦力が半減するということでもある。

つい先日終戦したばかりで最大戦力を失うとなれば、連合軍からの反撃も考えられるのだ。


「ならば聞くが、お前たちはへカテリーナを止められると思うのか?」


魔を象徴する漆黒の髪と真紅の瞳。

人でありながら魔族の様な色と魔力、ずば抜けた艶麗の様相。

重い黒のローブの下に隠された肌が、褐色でない事だけが人であることを証明するへカテリーナを前にして、宰相を始め、誰一人皇帝の問いに答えられる者はいない。

まだ情勢が危ういと分かっていても、へカテリーナを止められる手段など、誰も持ち合わせてはいないのだ。

例えどんな牢に閉じ込めても、転移の魔法で抜け出せるだろうし、下手に怒りを買ったなら、城ごと破壊して去って行くだろう。

ならば情に訴えて…と考えるだろうが、この国の人間ならばそれが無意味な事位理解している。


へカテリーナは15年前、魔法師団団長フィルゼンに森の中で保護されて養女となった。

当時五歳程の少女が魔物の多い森の中で…だ。

どうやって生き延びていたのか…それはすぐ理解出来た。

身体から溢れ出す膨大な魔力。

目の前に横たわる焼け焦げた魔物の死骸。

名前どころか言葉さえ理解出来ず、感情すら失ってしまったような無表情な少女は、まるで美しい人形のようだった。

狂皇と呼ばれた皇帝は、その魔力の異常性に歓喜し、稀代の悪逆非道な魔女の名を少女に与えて殺戮の道具にしようと考えた。

だが、フィルゼンは違った。

フィルゼンはへカテリーナに言葉を、知識を、魔力を制御する術を教えた。

ゆっくりと自分の娘を育てるように、愛情を注いで接し守ってきた。

だがそれも、たった三年の事。

戦死したフィルゼンの代わりに戦場に立たされたへカテリーナには、人間らしい感情が欠けていた。

知識欲だけは人一倍あった為に、八歳の少女は魔力を扱う術を知り、目の前に向けられる敵意を容赦なく薙ぎ払った。


今でこそ人らしく話しが出来ているが、それも弟弟子のレオや、幼い頃から共に過ごしたアシュレイが身近に居たからだ。

話し方など、アシュレイを真似ているせいか不遜にも聞こえる。

そして戦う理由もまた、レオやアシュレイ、自分に害なす者を排除しているだけに過ぎない。

彼女に愛国心などは感じられず、他人のことなど地を這うアリ程も興味が無い。

それが【暴虐のへカテリーナ】だ。


「し、しかし、陛下のお言葉ならば考え直していただけるのではありませんか⁉︎」


「だそうだが?」


「なんだ。お前は私を引き留めたいのか?」


「まさか。珍しくお前が己の意思で決めた事だ。寧ろ喜ばしい限りだな。」


「陛下っ‼︎」


悲鳴のような声に、へカテリーナの熱の無い視線が向けられ、宰相の身体がビクッと震え上がる。


「宰相の癖に何も理解していないのか。アシュレイは私が去っても困る事などないと言っている。何のために10年以上もかけて大帝国の土台を作ったと思っているんだ。」


「それは…」


「統一後の体制は既に整っている。今必要なのは武力ではなく政治力。それは私の領分ではないだろう?」


「……………」


「なに、心配するな。お前達の反対は想定内だ。有事の際は戻ると約束する。それと、アシュレイには…ん?なんだ?」


恐れでも恐怖でもない。

皆のポカンとした表情に、へカテリーナは首を傾げてアシュレイを見た。

だが、彼もまた口は開いてないものの、似たような表情で自分を見ている。


「あ、あぁ、すまんな。お前がこれ程饒舌に話すのを聞いたのは初めてで、少々驚いた。」


「ふむ、やはり記憶を得たからだろうな。」


「なんだ、五歳までの記憶が戻ったのか?ならば置き土産に話していけ。」


「いや、それは変わらず思い出せないが、20000年前の記憶をな。」


「二万…?」


アシュレイの怪訝な表情に、へカテリーナは自身の胸を指差した。


「魂の記憶…と表現して良いだろう。他はまだかなり曖昧だが、転生を繰り返す切っ掛けだった最初の記憶だからか、こちらの記憶情報は寧ろうるさいくらいだ。」


「転生…繰り返す…」


「あぁ、言っておくが、私は魔女へカテリーナの再臨ではないぞ。彼女の時代、私は別の世界にいたからな。」


饒舌な…しかも僅かだが抑揚のある喋り方に、いっそこれはへカテリーナに変装した魔族だと言われた方が納得していただろう。

うるさいと言う彼女はどこか楽しげで、それはアシュレイも見たことのない表情だった。


「と、言うわけで、私はこのうるさい亡霊の願いを叶えてやる事にした。異論は聞かないが、対策は取ったから安心しろ。これは私の魔力で錬成して作った魔導具だ。お前の身に危険が迫れば、強制転移で私の所に飛ぶ事が出来る。毒・麻痺・精神異常を自動で無効化する付与付きだ。しかも通信機能も付いているから、お前が魔力を込めれば念話も出来る。私にしか外せんから、奪われる心配もない。」


投げて寄越した小箱を開けると、真紅のピアスが入っていた。


「…俺が転移されるのか。」


「危機から脱出も出来て便利だろ?」


「…まぁいい。だが、男にピアスを贈るには色気が足りんな。」


「ん?」


「知らん…だろうな。この国でピアスを異性に贈るのは、『貴方と共にありたい』の意思表示だ。」


魔術以外に興味を示さなかったへカテリーナが知る由も無い風習だが、アシュレイはニヤリと笑ってピアスを着けた。

が、へカテリーナの反応は斜め上いくものだった。


「そうか。置き土産を渡すつもりが良い事を聞いた。是非参考にさせてもらおう。」


感心している姿に、またしても宰相の震える声が問いかける。


「ま、まさかヘカテリーナ様…好意を寄せる方が…国外に…?」


その問いに、更なる動揺が周囲に広がる。

ただ旅に出るのと、好きな男の元へ行くのとは、話しが大きく違ってくるからだ。

例えば敵対の可能性がある国の男ならば、いつかへカテリーナが敵に回るかもしれない。


「皆落ち着け。へカテリーナ、話しを戻すが、お前の旅の目的は何だ?亡霊の願いとは?」


「あぁ、夫を探しに行く。いや、正確には夫になる者を探しに行く…か?どうもこの魂は未だ愛する者と結ばれた事もなければ、子を成した事もないらしくてな。愛する男と結ばれ、子を成し、穏やかで幸せな日々を過ごしたいそうだ。」


またしてもポカーンである。


「…一つ聞こう。お前は愛がなんたるかを理解しているのか?」


唯一呆れ顔のアシュレイの言葉に、へカテリーナは胸を張る。


「知らん。」


「…だろうな。それでどう夢を叶える気だ?」


「さあな。だが、様々な記憶がゆっくりだが思い出されて行くのは感じている。正直、記憶と言っても物語や映画へ感情移入しているだけの他人事にしか感じんが、より鮮明になればまた違って来るだろう。その辺は旅をしながら考えるさ。」


「エイガ…が何かは理解出来んが、事情は理解した。レオが付いているならとりあえずは問題ないだろう。健闘を祈る。」


「では行く。…あぁ、アシュレイ、言い忘れたが、私は名を変える。」


コツコツと広間に靴音を響かせ出口に向かっていた脚が止まり、振り返りざまにローブがフワリと翻る。


「私はへカテリーナ・ボルドマンの名を捨て、生きていく。」


「へカテリーナ様⁉︎あ、貴女は亡きフィルゼン・ボルドマン公爵の唯一のご令嬢なのですよ⁉︎」


「自由に生きろ。それが爺様の遺言だ。私の名はユノ。ユノ・ミズリーだ!」


重い漆黒のローブを脱ぎ捨て、へカテリーナ…いや、ユノは笑った。

口元だけの笑みだったが、アシュレイが、この国の誰もが、見たことのない笑みを浮かべて、ユノ・ミズリーは広間を後にした。


『ちょっと、ユノ様‼︎俺を置いていかないで…って‼︎なんつぅ格好してんですか‼︎破廉恥過ぎるでしょ‼︎あ、待って下さいよ‼︎あぁもう‼︎身勝手なのは変わらねぇなぁっ‼︎』


廊下からレオのぼやきが聞こえたが、広間はシン…と静まり返っていた。


「…クッ…ククッ、ハッハッハッ‼︎」


「陛下‼︎笑い事ではございません!公爵位を捨てて旅に…しかも他国の者との婚姻など、断じて認めるわけには!」


「ならばお前が引き留めよ。」


「そ、それは…」


「元は名も記憶も持たぬ少女だったのだ。自由に生きる権利がある。それに、見てみたいと思わんか?」


ユノの瞳と同じ色の、真紅のピアスに触れながら、アシュレイは優しく微笑んだ。


「あの美しい娘が、愛した男の隣で浮かべる笑顔は、さぞ美しい事だろうよ。」





next…


















ご覧頂きありがとうございます!

名前がへカテリーナからユノに変わりました。

でもタイトルは【暴虐のへカテリーナ】

しかもへカテリーナの再臨ではないというね。

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